第35章 誕生日 ❇︎
活動写真の会場は、恋人達でいっぱいだった。
どうやら内容は恋愛もののようで、看板には良い雰囲気の男女が描かれていた。
う…
何か急に恥ずかしくなってきた。
「杏寿郎さん、恋愛もののようだけど…大丈夫?」
杏「う、うむ!きっと見れば感動するだろう!問題ない!」
流石の杏寿郎も戸惑っている。
でも、千寿郎のためにも観なくては…!!
「…入りましょうか…。」
ドキドキしながら2人は入っていく。
薄暗い室内に椅子が並べられていて、空いているところに座る。
入る前から思ってはいたが、辺りは恋人だらけ。
なぜか、こちらが恥ずかしくなるほど皆仲良しだ。
キョロキョロと落ち着かないでいると、杏寿郎が泰葉の肩を抱く。
杏「大丈夫だ。誰にも君には触れさせない。」
どうやら杏寿郎には、泰葉は他の男に警戒していると思われていたみたいだ。
しばらくして上映時間となった。
薄暗かったのが、また一段と暗くなる。
活動写真の内容はよくある恋愛話で、
出会いから恋心が芽生え、恋が実る。
途中、第三者が現れ拗らせる。
しかし、やっぱりお互いが好きで…
と、涙もあれば…
やはり恋愛ものだ。
口付けももちろんある。
流石に触れるだけのものかと思っていたら、
なんとも熱く、情熱的な口付け。
しばらくそんな口付けが続いたかと思ったら、男性がそのまま女性を押し倒し、画面から消えていった。
そして、映像は終わった。
つまり、話的にはハッピーエンド。
泰葉は口元に手を当てて、ドキドキと鼓動を打っていた。
チラリと杏寿郎を見ると、杏寿郎はまっすぐ前を見たまま。
心なしか肩を抱く力が強くなった気がする。
周りの恋人達は、足早に会場を後にする。
「き、杏寿郎さん、私達も出ましょうか。」
泰葉に声を掛けられてハッとする杏寿郎。
杏「…あぁ!そうしよう!」
2人は外に出て、家路へと向かう。
「す、素敵なお話だったわね。
とてもドキドキしちゃったわ!」
泰葉が平常心を装って話しかける。
そうでもしないと、ドキドキと脈打ち、どうにかなりそうだった。
すると、少し杏寿郎の歩調が早まる。
「どうしたの?杏寿郎さんっ…」
杏寿郎は誰もいない路地裏に泰葉を引き込んだ。