第34章 黒い薔薇
杏寿郎と泰葉は家に向かって歩く。
手を繋いで。
まだ慣れないが、朝よりは落ち着いている。
今日の出来事を聞かれて、どんな事をしていたかを話していた。
すると、繋いでいた杏寿郎の指が泰葉の人差し指を撫でる。
杏「…?泰葉さん、これはどうしたんだ?」
泰葉は忘れかけていた怪我を思い出した。
あの後、手当てをして、軽く包帯を巻いていたのだ。
「あ、これ…」
泰葉は黒い薔薇の出来事を、杏寿郎に話した。
花言葉の意味も。
杏寿郎は少し難しい顔をした。
杏「黒い薔薇…か。
そんな花言葉があるのだな。気になるのは誰が誰に贈ったか…だな。」
杏寿郎は立ち止まり、泰葉の包帯を解く。
出血は止まっているが、傷口が少し痛々しい。
すると、杏寿郎は泰葉の手を少し上げて、自分の顔を近づける。
そして、その傷口をぺろっと舐めた。
「…!!!」
泰葉が驚いていると、目線だけ泰葉に向けてニッと笑う。
傷口はじわじわと温かくなり、あっという間にきれいになくなった。
杏「ほう、本当にこのように消えていくのだな!
俺のもので泰葉さんが治るところを見た事がなかった!
こうして見てみると、実感が湧くものだな。
そして、治せるのが俺だけだと思うと、なんだか気分が高揚する!」
「…もう!」
泰葉は恥ずかしさのあまり、何も言えなくなってしまった。
杏寿郎は、また泰葉の手を握りなおし、歩き出した。
杏「そうだ!買い物をしよう!ちょっと寄り道させてくれ!」
「はい、いいですよ。」
泰葉は杏寿郎に引かれるままついて行った。
杏「黒い薔薇をもらって、気持ちが沈んでしまっていないかと思ってな!」
そう言って、2人が訪れたのは商店街の花屋。
沢山の花がバケツや水差しに刺さっている。
杏「店主!赤の薔薇の花を一輪いただけないだろうか!」
店の店主が赤い薔薇を包んだ。
店「贈り物ですか?」
杏「あぁ!気持ち的にはもっと贈ってやりたいが、今回は一輪なんだ。」
店主はニコニコ笑って杏寿郎と泰葉を見る。
店「まぁまぁ、ロマンチストな恋人ですね。
またいつでも必要な本数を買いに来てくださいね。」