第34章 黒い薔薇
しばらくすると、はっはっはっ!と大きな笑い声が響いた。
し「あらあら。これは名乗らなくても誰だか分かってしまうわね。」
「本当に。よく通る声ですこと。」
泰葉としのぶは顔を見合わせて笑った。
しのぶは少し早いが、患者もいないのでもう帰っていいと言ってくれた。
泰葉は着替えを済ませ、大きな声のする部屋へと向かう。
コンコン
炭「泰葉さんですね!どうぞ!」
部屋に入る前から、誰だか分かってしまうのか…。
炭治郎の鼻はどこまで利くんだろうと不思議に思う。
「失礼します。」
炭治郎の病室に入ると、杏寿郎が玄弥と炭治郎のベッドの間で椅子に座り、談笑していたところだった。
杏「泰葉さん!その格好になっているということは、仕事は終わりか?」
「はい、今日は患者さんが少なかったので。
もう少しお話をされてから行きますか?」
杏寿郎は泰葉が敬語になっていることに気づく。
杏「…そうか、今は炎柱だからな。」
ボソッと言って、杏寿郎は徐ろに立ち上がる。
そして泰葉の後ろに回ると、髪飾りを外す。
「れ、煉獄様?」
突然どうしたのかと泰葉は慌てて振り返ろうとすると、それを止められた。
杏「急いで支度してきたのか?
髪が結いきれていないようだ。結い直そう。」
「えっ、自分でやりますので!」
杏「いや、俺が結おう。前を向いていてくれ。」
そう言って、ぐいっと前を向かせる。
泰葉が前を向くと、顔を赤くした炭治郎、玄弥と目が合った。
炭「あ、あの…お2人は…」
炭治郎が何を言おうとしているのか。
それは流石に2人とも気付いていた。
赤面している泰葉の代わりに杏寿郎が答える。
杏「俺と泰葉さんは恋仲となった!
泰葉さんは、俺の恋人だ!」
堂々と公言できる杏寿郎が羨ましい。
炭治郎は杏寿郎の言葉を聞いて、パァっと表情を明るくさせた。
炭「そうでしたか!おめでとうございます!
いつになったらこうなるのかなって、ずっと思っていたんです!」
いやー、良かった良かったと頷く炭治郎。
…………。
『ずっとって、いつから⁉︎』
2人の声が蝶屋敷に木霊した。