第33章 新生活
「千寿郎くんは学問が好きなのね。」
泰葉に言われ、千寿郎は目を細めた。
千「はい、色々なことを知っていくのは楽しいです。
しかし、本当はやはり剣士になりたかった…。
でも、僕にはその才がありませんでした。」
その瞳には少しだけ涙が滲む。
泰葉は少し発言を躊躇った。
「…そっか。
それは、この家だから?
それとも千寿郎くんのやりたいことだったから?」
その質問で、千寿郎は固まった。
千寿郎は煉獄家に生まれたら剣士になり、炎柱を受け継いでいくものであり、そうでなくてはならないと思っていた。
だから、苦しい鍛錬に喰らい付き、頑張って剣士になりたかった。
しかし、それはこの家だからだろうか…
自分のやりたいことだろうか…。
「…ごめんね、千寿郎くんが一生懸命鍛錬に取り組んでるのはよく分かる。
この手も、こんなに手のひらが硬くなって。
才がないって言っているけど、その辺を歩いてる男性よりずっと強いと思う。」
泰葉は千寿郎の手を握った。
とても12歳の男の子の手とは思えないほど、何度もマメが潰れて硬くなった手。
千「僕は…兄上のようになりたいと思って…」
「強くて優しい?
千寿郎くん。
私は千寿郎くんは、もう優しくて強いと思うの。
それは、杏寿郎さんとは違うかもしれないけど、あの日街で助けてくれたあの日は、勇敢な心を持つ強い人だなって思った。
そして、私が危ない目に遭ってばかりいるから心配してくれたのよね?それも優しいなって思う。」
「もちろん、この家系に生まれたからそう思って当然なんだと思う。けど、だからと言って皆が剣技に優れているとは思わない。
杏寿郎さんも、もしかしたら剣技以外に他のことの方が優れているかもよ?
千寿郎くんは沢山の事を学ぶ力が長けている。お料理もそう。私より出汁の取り方が上手だもの。
千寿郎くんには、千寿郎くんだけの才があると思う。」
千寿郎の目からポロポロと涙を流れる。
千「僕、この家に生まれたのに剣士になれなくて、情けないと思っていました…。
でも、それでもいいんでしょうか…。」
「うん。良いに決まってる。
人にはみんな個性がある。この家に生まれたからってみんなが一緒じゃない。だから、千寿郎くんのやりたい事をして良いと思う。
きっと、槇寿郎様も杏寿郎さんもそれを望んでる。」