第33章 新生活
千「あ、向こうは落ち着きましたか?」
泰葉がやってきた事に気づいた千寿郎が声をかける。
「うん。もう大丈夫!
お手伝いするわ。何をしたら良い?」
千「ありがとうございます!では、こちらを盛り付けていただけますか?」
泰葉は千寿郎とこうして台所に並ぶのが好きだ。
幼い頃から台所に立っていたということもあり、手際がいい。
それに出汁を取るのも上手かった。
こうして、誰かと料理をするのは色々な収穫もある。
千「それで、その時の兄上が…ふふっ」
こうして、昔の兄弟話も聞けるし。
「千寿郎くんは杏寿郎さんのことが本当に大好きなのね。」
泰葉は話を聞きながら目を細める。
千寿郎は泰葉にそう言われ、少し照れた表情をした。
千「はい。いつでも強く優しい兄上が大好きです。
でも、そんな兄上が唯一、甘えられる場所を見つけたんだなって…。
そうしてくれた、泰葉さんのことも大好きです!」
泰葉よりも少し背の高い千寿郎。
真っ直ぐに泰葉の目を見て、そんなこと言ってくれるものだから、泰葉も照れてしまう。
杏寿郎にそっくりでもあるが、眉は下がり気味で優しい印象を受ける千寿郎。
「千寿郎くん…」
泰葉が感謝を伝えようとすると、後ろから熱い視線を感じる。
それに気づいて振り返ると、2人の間に立ち少し屈んで目線を合わせている杏寿郎の姿。
杏「む…、まさか愛の告白ではあるまいな?
それは流石の弟でも聞き捨てならないぞ!」
ちょっと冗談含め、そんな事を言っている。
「…わぁ!杏寿郎さん、今私たちとっても良いところだったんですよ。」
杏「!!良いところとは…!!泰葉さん、まさか…」
「弟にやきもち焼いてどうするんですか!千寿郎くんは、兄想いですよ!!」
そんなやりとりに、ぷっと千寿郎は吹き出した。
千「申し訳ありません、兄上。
僕の言った大好きは、兄上の泰葉さんへの想いには到底敵いません。」
そう言って笑う千寿郎。
その言葉に赤面する2人。
「千寿郎くんも、大人になったわね…」
杏「そ、そうか!割って入って悪かったな!」
泰葉は手元の盛り付けに、杏寿郎は居間へと照れ隠しに向かった。