第33章 新生活
千寿郎は夕食の用意をしに、母屋へ向かった。
泰葉と杏寿郎は布団を取り込む。
1組ずつ布団を持って、縁側へと上がる。
「ありがとう、ここに置いておいてもらえれば私しまうから…」
泰葉が布団を置いて杏寿郎を見ると、杏寿郎は複雑な表情をしている。
「杏寿郎さん?」
杏「この布団は…誰か使ったことがあるのか?
…どんな人が使ったのだろうか…。」
布団を抱えたまま、泰葉を見ているような、その先を見ているような…。
杏「頻繁には使っていないと言っていたが…。
これを使うのはご両親ではないのだろう?」
杏寿郎は、泰葉が咲子に2組の布団を譲っているのは知っていた。
おそらくその2組の布団が両親の布団。
つまり、ここにある布団は両親以外の人物が使用したということになる。
「杏寿郎さん、あの…「友人か?…友人だろう?」
杏寿郎は、なぜか食い気味で答えを急かしてくる。
まるで、自分に言い聞かせるかのように。
「杏寿郎さん!私の話を聞いてください!」
泰葉は少し口調を強めた。
それに杏寿郎はハッとなる。
「何を思ったかは分かりませんが、この布団は…
本当は使っていません。
友人はいますが、皆家の近くだったり、大勢で来て宿を取ったりするので、私の家には泊りませんでした。」
「もちろん、そんな男性もいませんでしたから。
この布団は誰も使っていません。ちょっと…見栄を張っただけです。」
張り切って来客用の布団を用意していたのに、使ったことがないというのが、何故か恥ずかしいと思ってしまった泰葉。
何故そう思ったのかは分からないが、千寿郎に対して見栄を張ってしまった。
杏寿郎は泰葉の言葉を聞いてホッとしたのか、眉がいつものように上がる。
杏「そうか!それなら良かった!」
何が良かったのか…。しかし、満足そうなので泰葉も安堵する。
杏寿郎は丁寧にその布団をたたみ、押し入れへとしまう。
杏「…では、これは俺用にしよう!俺がここに泊まった時用に!」
杏寿郎の言葉に目を丸くする泰葉。
「えっ、同じ家なのにここに泊まるんですか?」
杏「あぁ!俺は叶うのならば、ずっとそばに居たい!しかし、まだ夫婦では無いからな!だから、時折泊まる!」