第2章 無限列車
なんだか、勝手に焼き魚弁当になった。
仕方がない。学生達に譲ろう。
きっと食べ盛りだから、お肉がいいよね。
「…む?
もしや、お嬢さんも食べたかったか?」
自分に向かって言われた気がして声のする方を見た…
目の前には大きく見開かれた、2つの目。
瞳は髪のように中央が緋色で、そこから金色が外側に薄くなっていく瞳。
太陽のような、綺麗な瞳だった。
しばらくこれが人間の瞳だという事を認識するのに時間がかかった。
「…綺麗な色」
思わずつぶやく。
「む?」
目が顔と一緒に傾いたので、ようやく先程の青年が至近距離で首を傾げていると分かった。
「…ち、近い!」
我に帰った泰葉は慌てて一歩下がった。
初対面の人の目をずっと見て失礼だったとは思うが、この人も随分と近づきすぎだ!
「それは失礼した!…して、お嬢さんもこの弁当が食べたかったのか…?ならいくつか譲ろ…」
「いえ!私はこちらの魚のものにしますので、食べ盛りの方々で召し上がってください!」
泰葉は食い気味に青年の申し出を断る。
食べ盛りの青年達からお肉を取り上げるなんて申し訳ない。
しかし、そんな事を言わせてしまうほど残念そうな顔をしていたのだろうか。
泰葉は急に恥ずかしくなった。
「本当にいいのか?…では、遠慮なくいただくことにする!」
また声高らかだ。
青年は泰葉に一礼すると踵を返して去っていく。
その姿を見送っていると、彼の羽織がひらっとはためき背中に一文字が大きくあった。
「…滅…?」
どこの学校のものだろう…不思議な学生服だな…。
と思いながら、焼き魚弁当のお金を払おうとすると…
店「あら、そちらのお金も、先程の殿方が払って行かれましたよ。」
うふふ。と笑う店員さん。
………何っ⁉︎⁉︎
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ボーッボーッ
列車の出発間近の知らせが鳴る。
泰葉はあれから、先程の青年を探した。
お弁当代を学生に払わせてしまったのだ。
まず、払ってもらうような筋合いもなければ、お礼も言っていない。
あれだけ目立つ出立ちだったから、すぐ見つかると思ったが…見つからない。
泰葉は諦めて、列車に乗ることにした。