第32章 報告と離れ
その日の夜は賑やかだった。
千寿郎と泰葉でテキパキと料理を作ったので、短時間で豪勢な食卓が出来上がった。
蜜「わぁ〜!!!どれも美味しそう!!何から食べようかしらぁ!」
目をキラキラさせて料理を見渡す蜜璃。
小「取れないものは俺がとってやろう。」
小芭内のサポート体制もバッチリだ。
「たくさんあるので食べてくださいね!」
今回は、いつ大きな戦いが幕を開けるか分からないので、お酒は無し。
泰葉は槇寿郎を呼びに向かう。
そこには千寿郎の姿。眉を下げて困っているようだ。
「千寿郎くんも呼びにきてくれたの?」
千寿郎は泰葉の顔を見て切ない表情をした。
千「…はい。でも…父上が…」
現役時代の最後は、勤務中にも酒を持ち込み後味悪い退き方だったと言っていた。
自分の家に柱が揃い、槇寿郎を知っている者にも会い辛いのだろう。
「槇寿郎様、失礼します。」
槇「………。」
泰葉は答えのない槇寿郎に構わず、襖を開けた。
縁側に腰掛けているが、その背中は少し丸まっている。
「槇寿郎様、お食事ができました。」
槇「すまない。今日はここで…」
泰葉は眉を下げて、ふぅ、と一呼吸した。
そして、槇寿郎の隣に膝を付ける。
背中に手を添え、槇寿郎の顔を覗き込むと、初めて会った時の表情が見え隠れしていた。
それほど気まずいのだろう。
「こちらが宜しいですか?分かりました。お待ちしましょう。」
泰葉の意外な返答に、槇寿郎は驚いたように泰葉を見上げる。
「でも、一応期待通りな言葉をお伝えしますね。
…それで良いのですか?あの日、御子息達に謝る事も、今こうして向き合うこともできている。
それなのに、一緒に戦ってきた仲間たちからは背を向けたままで良いですか?」
そう言って、泰葉は立ち上がる。
「私たちはお待ちしております。」
そして、泰葉は廊下に出て襖を閉めた。
千「あの…父上は…?」
「大丈夫、私がお連れするから、千寿郎君は居間へ行っていて。」
千寿郎は頷いて居間へと向かった。
食事が始まったようで賑やかな声が聞こえ始めた。
そんな中でも杏寿郎の「うまい!」は群を抜いて聞こえてくる。
スッ…
槇寿郎の襖が開いた。