第30章 太陽の瞳
「もう!急に引かれたらびっくりします!」
泰葉は少し睨んで、不満を訴える。
杏「その顔さえも愛おしいと思っている俺は重症か?」
「…えぇ。だいぶ。」
「さっきは聞こえなかったので、もう一度言っていただけますか?
杏寿郎さん。」
泰葉は杏寿郎に上目遣いの状態でもう一度強請る。
杏「ん゛…、約束だからな。
…泰葉さん、好きだ。
初めて駅で会ったあの日から。」
杏寿郎はコツンと泰葉の額に、自分の額をくっつける。
泰葉は、思わず顔を赤くしてこの状況に照れる。
顔を離そうと首を引くも、付いてくるように杏寿郎の顔がぐっと押してくる。
杏「泰葉さんは、言ってくれないのか?」
額をつけているので自然と上目遣いの杏寿郎。
そんな風に強請るもんだから、断れない。
「……。
私も好きです。
あの日、あなたのこの太陽の瞳を綺麗と思った。
きっとあの瞬間から、あなたに惹かれていたんだと思います。」
赤く、熱く
燃えるような
太陽の瞳。
それはあなたが
お日様そのものだったから。
「5歳も年上だけど…いい?」
杏「歳は関係あるのか?むしろ、結婚を前提としたいのだが、いいだろうか?」
「先に死んじゃうかもよ?」
杏「美人薄命というが……女性の方が寿命は長いらしいぞ。」
「美人薄命…それなら私は長生きね。」
そんなことを言っていると、杏寿郎は少しムッとした顔をする。
杏「君は自分の事を下げすぎだ。もっと自分の美しさと可愛さに自覚を持ってくれ。」
腰を抱えるように回されていた腕が解け、両手で頬を包み込まれた。
杏「俺はそんなにひどい見た目の人に恋をしたのか…?
少なくとも、俺の中では、この世の全てにおいて、一番美しく、可愛く、愛しい。」
そう言って、ちゅっとまた触れるだけの口付けを落とす。
「こんなに甘い展開になるとは思っても見なかった。」
そう言って、暫し甘く触れるだけの口付けを楽しんだ。
杏「これ以上していると、眠れなくなってしまうな。
恋人となったんだ。今日は寝るとしよう。
明日からも、泰葉さんに触れることができる。」
泰葉は照れ臭そうに頷いて、名残惜しいが眠ることにした。
杏寿郎が部屋を出る。
『おやすみ』