第30章 太陽の瞳
「私、起き上がれた…。耳も…聞こえてる…?」
杏「痛くもなんともないか?脹脛は、どうなった?」
泰葉はどこにも痛みを感じず、脹脛の包帯を外した。
すると、そこには傷ひとつなく綺麗な肌になっていた。中の筋も痛むことはない。
他の絆創膏なども外していくと、傷など一つもなかった。
杏寿郎はその様子を見て、やはり…と確信した。
杏「泰葉さん、落ち着いて聞いてくれ。
2つ目の大切な話だ。」
「君のことを治癒できるこの世に1人の適合者。
それはおそらく
俺だ。」
「え…」
泰葉は驚きを隠せない。
確かに口付けを交わし、少なからず杏寿郎の唾液を飲み込んでいる。
そして、綺麗に消えた傷。
杏寿郎が自分の…
適合者…
すると、コンコンと戸が鳴った。
し「…入っても、大丈夫ですか?」
しのぶは、杏寿郎が入ってきてからの流れが予想できているのだろう。入室に許可を求める。
杏「あぁ!問題ない!」
杏寿郎の答えを聞いて、しのぶが入ってくる。
ベッドに腰掛けた泰葉を見て、状況を察したしのぶ。
し「お二人は、ようやく結ばれたのですね。
おめでとうございます。」
にこりと笑うしのぶに、全てバレているのだと分かり、顔を赤くする泰葉。
一方で杏寿郎は「ありがとう!」と溌剌と礼を言っている。
クスクスと笑っていたしのぶだが、一呼吸おいて真面目な表情となった。
し「今、知ったかと思いますが、泰葉さんの適合者は煉獄さんで間違いないでしょう。
遊廓から戻った時、傷を負っていたのを覚えていますか?それが目を覚ました時には消えていた。」
泰葉は頷く。自分でも不思議に思っていた。
杏「あの夜、俺は薬を飲ませるためと言って口移しをした。
最初は薬の効きが良かったからかと思ったが、多分俺が適合者だったからだ。」
し「だから、今回は間違いないか確かめるため、傷に関しての薬は投与しませんでした。」
泰葉は今の話を頭の中で整理して、何とか落ち着くことが出来た。
「こんな…都合の良い話があって良いのかしら…。」
恋人が適合者。
都合が良すぎる。
夢ではなかろうか?