第30章 太陽の瞳
杏寿郎はゆっくりと泰葉に近づいた。
杏「やっと目を覚ましたか…。
命に別状はないと分かっていても肝が冷えるな。」
杏寿郎は眉を下げて笑った。
「ごめんなさい、私まだ耳が聞こえなくて…
唇を見ないと分からないの…。」
杏寿郎は泰葉から顔が見えるように座る。
杏「これで見えるか?」
泰葉はコクリと頷く。
「しのぶさんがね、治してもらいましょうねって言ってたんですけど…。
どういう事なのかしら…。」
寝たまま首を傾げる泰葉。
杏寿郎はいよいよか…と、自分の中で喝を入れる。
杏「その事なんだが…
俺は今から泰葉さんに2つ大切な話をする。
聞いてくれるか?」
改まった顔をする杏寿郎に、これは本当に大切な話だと、寝たまま姿勢を正す。
「なん…でしょうか?」
杏寿郎は、唾をごくりと飲み込み、膝の上の拳をぎゅっと握った。
ただならぬ空気。
泰葉も思わず唾を飲み込む。
杏「俺は…
泰葉さんが好きだ。」
杏寿郎は泰葉の目を真っ直ぐ見て、簡潔に、心のままに言葉にした。
「…へ…」
一方で泰葉はこんな状況で、突然杏寿郎からそんな言葉を言われると思っているはずもなく、間抜けな声が出る。
しかし、何にも変えられぬ言葉は、流石の泰葉にも理解せざるを得ない。
だんだんと、薄暗がりでも分かるくらい真っ赤になっていく。
「今、私…唇を読み間違ってないかしら…
好きって…言いました?」
杏「あぁ、言った。」
杏寿郎は泰葉の目を見て頷いた。
すると、目をパチパチさせてこれ以上ないくらい赤くなる泰葉。
その様子を見て、フッと吹き出す杏寿郎。
杏「ふふ…っ、そんな反応をされると、良い返事が来ると自惚れてしまいそうだが…?」
悪戯っぽく顔を傾げる杏寿郎に、泰葉は少し狡いなと思った。
泰葉はゆっくりと、布団から手を出して、杏寿郎の膝でぎゅっと握られた拳に触れた。
「こんなに真っ直ぐ言われては、答えなくてはいけませんね。
杏寿郎さん、
私も…あなたが好きです。」
言ったそばから、また赤くなる泰葉。
泰葉からの返事に、杏寿郎も赤くなる。