第28章 不穏
小「は、はい!」
ぶくく…
小鉄は無一郎の閉じ込められている水に息を吹き込むと、小さな泡になって無一郎の前を漂う。
無一郎はその空気を目一杯吸い込む。
人のためにすることは
巡り巡って自分のためになる。
そして人は
自分でない誰かのために
信じられないような力を
出せる生き物なんだよ
無一郎
うん、知ってる。
— 霞の呼吸 弐ノ型 八重霞 —
バシャバシャ!!
「ガハッ…ゲホ、ゲホッ」
「無一郎くん!大丈夫⁉︎無一郎くん、その棘抜ける⁉︎」
ハァハァと息を整えながら棘を抜く無一郎。
無(痺れが酷い…、肺も痛い…)
ダンッッ
泰葉は鯉の胴体に包丁を突き刺し、身動きを取れないようにした。
「無一郎くん!」
泰葉は急いで駆けつける。
無一郎はなかなか口を開くことができない。手も小刻みに震え自由が利かないところを見ると、あの毒には麻痺させる効果があるのだろう。
泰葉は無一郎の治癒をしたかった。
でも、涙は出ていないし、今は出血もない。
後は唾液だが…それは無一郎にも抵抗があるだろう。
泰葉は鯉に刺さった包丁のところに行く。
そして、自分の腕に当てがった。
小「お姉さん!何を…」
「私の血に治癒能力があるから…」
無一郎は自分のために泰葉が肌を傷つけようとしている事に気がついた。
無「…だめだ!傷なんてつけないで!」
泰葉は無一郎と小鉄からの視線に戸惑った。
…どうしたものか…。
涙も出そうにないし、血も出せない。
ならば…もう…
しのぶが言っていた。おそらく肌に染み込ませるより、口から摂取した方が吸収が速いと…。
「小鉄くん、ちょっと目を閉じていてくれる?」
小「え、目…」
「無一郎くんの事すぐに治すから。見ない方が良いと思う。」
小「わ、わかりました!」
小鉄は目を手で隠した。
「無一郎くん、これは治療だと思ってくれる?愛のあるのは、大切な人とね。」
キョトンとする無一郎の頬を両手で包む。
そして、泰葉は無一郎の唇に自分の唇を重ねた。
口付けが目的ではない。唾液を入れない事には治療にならない。
無一郎は目を見開き、どうして良いのか分からない様子だった。
泰葉も経験があるわけではないので、ぎこちない。