第28章 不穏
その頃、杏寿郎は任務に出ていた。
杏「炎の呼吸 参ノ型 気炎万象!!」
ぎゃぁぁぁぁぁあ!!
鬼のけたたましい声が木霊した。
頸失った鬼はパラパラと、散っていく。
一つの村を支配していたデカいトカゲのような鬼。
壁などを自由に行き来して、中々に厄介な鬼であった。
ビュンッと刀を振り、鬼の血を払う。
幸い、鬼の言う事を聞いて喰われることを避けていた村人には被害者がいなかった。
…と言っても、生贄にこれから赤子とその母親を5名差し出されそうになっていたのだが。
助かった母親は、一目散に我が子を抱きしめる。
恐怖と安堵で赤子も母親も大泣きだ。
あと少し来るのが遅くなっていたら、この涙の意味が変わってしまっていたと思うと、背筋がゾッと寒くなる。
村人全員の命を背負わされた5人の赤子と母親達。
…ということは父親もいるわけだ。
ガタガタと震えながら入ってきた男たち。
赤子と母親に何度も何度も謝っている。
杏寿郎はその姿に胸を痛めながら、その場を後にすることにした。
他の村人達が、深々と頭を下げて礼をいう。
杏寿郎は一礼して、その村を離れた。
村は救ったはずなのに、被害者もいなかったのに…
杏寿郎の心は晴れなかった。
何かが、モヤモヤとしている。
すると、遠くから聞き慣れた声がした。
『煉獄さーん!』
ピンクの長い三つ編みが揺れる。
蜜璃だ。
杏「甘露寺!任務か?」
蜜「はい!今終わったところなんです。だから、これから帰ろうかなって。」
杏「…うむ!そうか!」
蜜璃は杏寿郎の様子に違和感を持つ。
蜜「…元気ないです?
泰葉ちゃん…ですか?」
蜜璃にそう言われて、杏寿郎は眉を下げた。
杏「後輩に気付かれるようでは…いかんな。」
杏寿郎は街中や任務などで泰葉に似た人を見かけると、思い出して会えないことを、切なく思っていた。
先程も、母親の中に黒い癖毛の女性がいた。
我が子を抱いて涙を流す女性が、もし泰葉だったら…と胸を痛めていたのだ。
蜜「私と一緒に帰れたら良かったんですけど…」
杏「いや、今は里の方が安心だろうからな!」
金崎の件もある。
泰葉にとっては里にいた方がまだ良いだろう。