第3章 蝶屋敷
しのぶには、杏寿郎が何を言いたいかは察しがついていた。
杏寿郎は 心 を心配しているのだ。
あの時、初めて鬼というものに遭遇した。
そして、死にかけた杏寿郎も目にしている。
もし、記憶を失ってしまったのが
戦闘による衝撃などからならば、思い出しても大丈夫だろうが
精神的なショックによるものならば、どうだろうか。
ましてや、過去に悲しいことがあったならば。
し「泰葉さんは、自分に戦える力があることも知らないようでした。もし、自分の戦闘能力が高いことを理解していたのであれば、そんな反応はしないはずです。」
杏寿郎は頷く。
杏「俺があの日の記憶の引き金になるならば、それと同時に彼女の別な記憶の引き金にもなりかねない。」
誰も返す言葉がなかった。
とりあえず、杏寿郎と泰葉の面会は見送ることにした。
そして、お館様に相談する手配をとった。
お館様ならば、何か分かるかもしれない。
話がひと段落つこうとしていた時、しのぶが口を開く。
し「先程の話…ぶり返しても?」
男4人は「え…」と、少し嫌そうな顔をした。
今せっかく結論が出た所なのに…と。
しのぶは額に青筋を浮かべながら
「煉獄さんの怪我のことです。」
と、続けた。
杏寿郎の話では、左目は潰されて右脇腹には肋骨の粉砕、内臓の損傷があったと言っていた。
炭「それは間違いありません。戦いが終わった後、左目が潰れているのと、脇腹が赤黒くなっていたのはこの目で見ましたから。」
善逸と、伊之助も「うん」と頷いた。
し「直接脇腹が見えていたのですか?」
炭「はい。泰葉さんが、確認していました。」
し「泰葉さんが?」
伊「あいつがギョロギョロ目ん玉の服を脱がせたんだよ!」
杏「!」
善「な、なんかさ、泣きながら煉獄さんの服脱がせてて、見ちゃいけない所見てるみたいで…」
炭「た、たしかに…。でも、泰葉さんからは優しい匂いと、焦りの匂いがしてた。本当に煉獄さんのこと死なせたく無かったんだろうな。」
何故か固まる杏寿郎。
し「あらあら。
でも、ここに煉獄さんが運ばれてきた時には大きな怪我はありませんでした。このように左目も機能していますし…
潰れた目は流石に呼吸では戻せません。」
他に変わったことは?と、炭治郎達に問いかける。