第23章 危険
泰葉は優れた戦闘能力をもっている。
とはいえ、やはり女性だ。男の欲を孕んだ目を向けられれば、また違う危険を感じ、怖気付いてしまうだろう。
杏寿郎はそうなれば、泰葉の戦闘能力は発揮されないかも知れないと思った。
泰葉の手の震えが止まったことを確認して、杏寿郎は声をかける。
杏「泰葉さん、試してみたいことがある。
君の部屋にいいだろうか?」
泰葉は何だろうと首を傾げ、頷いた。
泰葉が使っている客間の襖を開ける。
そこには泰葉が今夜眠るための布団が一組敷いてあるだけの部屋。
杏寿郎はパタンと襖を閉めた。薄暗い中に2人きり。
泰葉は嫌でも心臓が大きく鳴った。
「き、杏寿郎さん?試したいことって…?」
そう言って振り返ると、静かに泰葉を見つめる杏寿郎。
杏寿郎は自分の中にある泰葉に対する欲を集めた。
視線を一度外し、次にはギッと泰葉の目を見た。
杏「これから、俺は悪い男になる。
泰葉さんは俺を拒んでくれ。」
対して泰葉はその杏寿郎の姿にゾワリとした。
一気に身体中、鳥肌が立つ。
少し溢れる月明かりに杏寿郎が照らされてその目がギラついていた。
いつもは絶対に見せないような、欲で熱を含んだ目。
すると、杏寿郎は泰葉との距離をグッと詰めて、泰葉の両手を掴み上げて片手で纏め、軽く足を払えば簡単に布団に押し倒されてしまった。
「あっ…」
あっという間に布団の上に横たわり、前を見れば天井ではなく杏寿郎の顔がすぐ近くにあった。
泰葉の顔は今真っ赤だろう。
気のせいだろうか。
だんだんと杏寿郎の顔が近づいてきているような…
ドクンドクンと脈が大きく、速くなる。
え、待って…
もしかしてこのまま…
と期待なのか、戸惑いなのか分からない心境の中
互いの鼻がつきそうなところまで来たところでピタリと止まり、杏寿郎がふっと笑った。
杏「拒んでくれないと、本当に唇を奪ってしまうところだぞ。」
そう言って、杏寿郎は離れていった。