第23章 危険
槇寿郎と瑠火の出会いはお見合いだった。
代々炎柱を継いできた家系。煉獄家の後継問題は付き物だった。
適齢期になれば、幾つもの見合いの話を持ちかけられる。
しかし、槇寿郎はその気は無く、会わされる女性に微塵も興味が湧かなかった。
そして、女性の方も容姿端麗な槇寿郎に惹かれ来るも、鬼殺の話をすると、一気に熱が冷め見合いを断わった。
槇「そんな中、瑠火との見合いが舞い込んだ。
俺はいつものように、適当に済ませようと思い、見合い会場となる部屋へと入った。
その時、瑠火を初めて見て衝撃を受けた。
なんて美しいのだろうと…」
瑠火は表情をコロコロ変えるような女性ではなかった。
しかし、綺麗な宝石のような赤い瞳には、強い芯が通っていて凛とした美しさがあった。
槇「何度か会う機会を設けてもらってな…。
会えば会うほど、話せば話すほど愛しさが増していった。
しかし、俺は奥手でな。手を握ることも長いことかかった。
そして、とうとう鬼殺のことを話した時
瑠火は退かなかった。
むしろ、その支えになると申し出てくれた。
真っ直ぐな瞳で。」
槇寿郎は遠くを見つめ、でも愛しいものを見ているようだ。
槇「俺はこんなにも人を愛することができたのかと驚いた。
それまでは、お前のようだった。
鍛錬と鬼殺のみ。うつつを抜かしている場合ではないと。」
槇寿郎は杏寿郎を見た。
槇「お前にもこんな話をする時が来るとはな。
一人の女性を愛することは、良いことだ。
計り知れぬ力となる。
泰葉さんがお前のそんな存在になれば良いな。」
杏「…はい。」
槇「しかし、失うのも一瞬だ。そして、愛すれば愛するほど傷は深い。
お前は俺とは違い、瑠火に似て芯が強いと思っている。
何も失う理由は鬼ばかりではない。天災、病、人の場合だってある。
鬼殺隊だけではない。誰でも明日わからぬ命だ。
それに耐えられる覚悟で愛せ。
…俺みたいにはなるなよ。」
瑠火を亡くした時からの槇寿郎の変わり様を知っている杏寿郎だからこそ、この言葉は重かった。
槇寿郎は本当に瑠火を愛していた。
杏「…はい。」