第22章 目覚め
いつも彼は腕や足と、割と見えやすい位置に怪我を負ってきた。
しかし、今回は背中。
背中を確認するには脱いでもらわないといけない。
「確認するので、見せてもらってもいいですか?」
泰葉は通常通りに対応する。
彼は隊服のボタンを取り、はらりとシャツも脱いだ。
「後ろを向いてください。」
頷いて背中を見せる。中央には確かに強く打ち付けた跡がある。
本当は彼に触らない方が良いと思うが、触診をしないといけない。泰葉には、医学の詳しい知識はないが、どこが一番治療が必要なのかは本能的に分かっていた。
「少し触りますね。」
そう言って、赤くなっているところを触ると、泰葉には見えていないが、ニヤニヤと笑っていた。
『泰葉さんの手はいつも温かい。触れられただけでいい気分だ。』
褒め言葉なのか、口説き文句なのか、感謝の言葉なのか…
どれとも取れる言い方をして、彼は泰葉の顔を見る。
「あ、あの…まだ治療が終わっていないので、後ろを向いててください。」
泰葉はゾワリと、悪寒がした。
彼は言われた通りまた後ろを向く。
『そんなに怯えた目をしないで。
ゾクゾクしますから。僕を目覚めさせない方が良い。』
泰葉は一刻も早く、彼の治療を終えたかった。
触診して、1番痛むところに湿布を貼る。
「これで、様子を見てください。痛みが引かない場合はしのぶ様に診ていただいた方がよろしいかと思います。
…もう怪我をしないでくださいね。」
泰葉がそう言うと、彼は少し黒い空気を漂わせた。
『それは、僕が来ない方がせいせいするということかな?』
少し口調が強い。
機嫌を損ねているようだ。
泰葉はこれ以上刺激してはいけないと察した。
「違いますよ、痛い思いをして欲しくないと思っただけです。」
泰葉は出来るだけ自然な笑顔を作って笑った。
珍しく、表情筋が硬くなってるのを感じる。
『そっか、やっぱり泰葉さんは優しいね』
そう言って彼は、今日もありがとう、と言って出ていった。