第3章 蝶屋敷
「失礼します」
しのぶが病室に入る。
し「お久しぶりですね。気分はいかがですか?」
いつもの張り付いた笑顔で尋ねる
杏「すまないが、水をもらえるか?口の中がカラカラで。」
しのぶが水をコップに注ぎ、手渡す。
1口、2口と喉を潤すと、やっと落ち着いた。
杏「気分は良いとはいえないが、悪くない!」
しのぶは、病み上がりでよくハキハキと喋れるなとギョッとした。
し「では、血圧や軽く診察をしますね。」
杏寿郎は正面の中庭を見ながら、診察を受ける。
外では泰葉が指を何やら翳している。
(彼女は何しているんだ?…もしや蝶を止らせたいのか?)
しのぶは採血を済ませ、脈拍の測定に入る。
未だ中庭を見つめる杏寿郎。
すると泰葉の指に蝶が止まった。
泰葉は興奮していた。とても嬉しそうに、しかし動いたら逃げてしまうので動かないように…。
その何とも言えない仕草と、表情の一部中を見ていた杏寿郎は一気に脈が上がった。
心臓がドッドッドッドッと大きく打ち、身体中が熱くなるのを感じる。
し「煉獄さん⁉︎脈拍がっ!」
しのぶの声で我に帰り、
杏「む!すまない!!」
と、しのぶの顔を見る。
すると直ぐに脈が落ち着き、熱も落ち着いた。
し「もう、また計り直し…
言いかけたその時
炭「煉獄さん大丈夫ですか⁉︎すごい匂いが…!」
善「すごい心臓の音がっ…!!」
伊「ギョロギョロ目ん玉!何があった⁉︎」
病室の前で待機していた3人が騒々しく入ってくる。
どいつもこいつも…と、しのぶは切れる寸前だった。
3人はとりあえず静かにしていろと釘を刺され、
静かに病室の隅に座っている。
すべての診察を終えた。
杏寿郎が、また中庭に目線を移すと、泰葉は部屋へと戻っていくところだった。
ふぅ…と息をつき、しのぶの診断結果を待つ。
し「血液はもうしばらくしないと分かりませんが…。その他は異常ありません。
…しかし、私にはそれが異常だとしか思えません。」
それは、その場にいた全員が感じていたことだった。
し「さて。
皆さんには、まだあの日の出来事を聞いていませんね。
私も隠からの報告しかありません。
…何があったか…話してもらいましょうか。」
少々不敵にしのぶは微笑んだ。