第22章 目覚め
泰葉の姿を微笑ましく見ていると、ふと隊士が泰葉の手を握ろうとするのを見逃さなかった。
杏寿郎はパッと隊士の手を止める。
杏「君は手当の礼を言うのに手を握らなければならないのか?」
杏寿郎の口元は笑っているが、目と声は笑っていなかった。
隊「い、いえ。そんなことは…」
カタカタと震えながら
隊「あ、ありがとうございました!!」
と、頭を下げて逃げるように出ていった。
泰葉は杏寿郎の登場に驚いた。
「もう!煉獄様!隊士の方を怖がらせてはいけませんよ!」
杏「しかし、礼を言うだけなら手を握る必要はないだろう?」
「手を握られるのは、いつものことです。ちゃんと私だって、対処できます!」
…いつものこと。
杏「泰葉さん、いつも手を握られているのか?」
杏寿郎は少しムッとしている。
それを感じ取った泰葉は慌てて、話をする。
「皆さん、お礼を言ってくれるだけです!別にそれ以外のことはありませんよ。」
杏寿郎は、ふぅ…と息をついて眉を下げた。
杏「きっと、優しい泰葉さんのことだから、そうされても微笑んでいるのだろう?
しかし、ここは聖職者の集まりでもないんだ。勘違いをした男にとって喰われてしまわないか、とても心配だ。」
そう言って杏寿郎は泰葉の頭を撫でる。
泰葉はその仕草にドキリとした。
「だ、大丈夫です!もし、そうなった場合、私打ち負かす事もできますし!」
あまり変わらない力瘤を作ってみせる泰葉。
それを見て、苦笑いする杏寿郎。
杏「その腕を見る限り、心配を煽られるな…。」
「え…」
杏「しかし、泰葉さんが強いのは知っている。これからも気をつけるんだぞ。」
杏寿郎は泰葉の顔の高さに自分の顔を合わせて、視線がぶつかる。
杏寿郎の綺麗な瞳が、窓からの光に照らされキラリと光る。
少し恥ずかしくなった2人は何となく視線を外し、互いに頬を染めた。
杏「そろそろ行かなくてはな…!
仕事の邪魔をしてしまってすまなかった。たまには千寿郎達にも顔を見せてやってくれ。会いたがっているから。」
「はい、またお伺いしますね!」
そう言って泰葉は微笑んだ。