第21章 想い
なんでもない話をしながら、ゆっくりとした時間が過ぎていく。
鬼のいない世界は、こんな時間がずっと続くんだろう。
ふと泰葉を見た時に、顔の脇に垂れた髪の先に、餡子がついていた。
きっと作っている間に付いてしまったのだろう。
実「泰葉、ちょっと動くなよォ。」
泰葉の、癖のある髪に触り、付いた餡をとってやる。
何が付いていたのかが気になった泰葉は実弥の手を見ようとクイっと顔を動かした。
その拍子に互いの顔が近くなる。
クリっとした目が実弥の目を捕らえる。
目が離せない…
実弥はこのまま唇を奪ってやろうかと思った。
が、
泰葉はふふっと笑って顔を離した。
多少、頬は赤らんでいるものの、俺ほどではなさそうだ。
「不死川様はお兄さん気質なのですね。」
実「まぁな、兄弟がいて、一番上だったからなァ。」
泰葉には俺を兄のように見えるという事か。
俺は明らかにガッカリしていた。
でも、悪い気はしない。
俺は、いつもだったら絶対に話さないが、兄弟の話をした。
すると、泰葉から意外な言葉が帰ってきた。
「もしかして、鬼殺隊に弟さんがいらっしゃいますか?」
実「知ってるのか…?」
「月に一度程度、しのぶさんのところにいらっしゃっています。お顔立ちは似ているので、そうかなと思ってはいたのですが。」
実「玄弥っていうんだ。俺は本当はアイツを鬼殺隊になんて入れたくない。早く辞めさせて、所帯持って幸せに歳をとって欲しいんだよォ。」
つい、本音を漏らしてしまった。
でも泰葉ならいいかって思えた。
「槇寿朗様も、そのようにおっしゃっていました。
死ぬことがわかっている場所に行かせる親はいない。
親じゃなくても、大切な家族にはやっぱりそう思いますよね。」
「でも、杏寿郎様はそれでも戦い続けるという、強い決意がありました。
鬼のいない世界を取り戻すため、お母様から任せられた、弱き人を守るための責務だそうです。
もしかしたら、同じではなくとも、玄弥様にも決意があるのでは?玄弥様からしてみれば、お兄さんのことを思うのも同じだと思います。強い方だと信じていますが、鬼殺隊は明日の命も分からぬ身なのですから。少しでも力になりたいのでしょう。」