第21章 想い
〜義勇回想〜
3日前。
義勇は蝶屋敷に訪れていた。
歓迎会での件で詫びの食事に誘うためだ。
泰葉は治療室にいたため、その部屋までやってきた。
コンコン
「はい」
義「泰葉、今時間大丈夫か?」
泰葉は包帯や軟膏の補充をしていた。
「冨岡様!珍しいですね。どこか怪我でも?」
義「いや、先日の詫びの食事でもどうかと思ったんだ。」
泰葉はキョトンとして、あの件か!と分かったようだ。
「ありがとうございます。
今日はもう治療がありません。」
義「では、今日で大丈夫か?俺も時間はある。」
その時、しのぶが通りかかる。
し「あら、珍しいですね。
どうしたのですか?」
泰葉はしのぶに訳を話す。
し「そういうことでしたら、今日はもう上がっても構いませんよ。
明日、また元気に来てください。」
しのぶはニコッと笑って立ち去った。
しのぶからの許可も出たので、泰葉が片付けをしたら出かけることになった。
泰葉と義勇は街までやってきた。
義勇が好きな鮭大根の美味しい小料理屋に入ることにした。
平日だが、昼時とあって少し賑わっていた。
注文した鮭大根が届く。
義勇はいつに見せない笑顔を見せた。
泰葉は義勇のその表情に驚いた。
「本当に鮭大根がお好きなのですね。」
泰葉はふふっと微笑む。
義勇はその笑顔に惹かれた。
義「…美味いか?」
「はい!鮭大根は初めて食べましたが、とても美味しいです。」
義勇の顔を見てニコッと笑う泰葉は、何かに気づいてハンカチを取り出した。
義勇は食事の際に口の周りに食べものをつけてしまう。
「冨岡様、お口の周り、とっても賑やかですよ?」
泰葉は、このハンカチをどうぞ、と差し出してくれた。
義「いや、泰葉のハンカチを汚すわけにいかない。」
そう言って、義勇は自分の手で払おうとした。
しかし、うまく取れない。
「あらあら、それでは取れませんよ。口を閉じてて下さい。」
泰葉は立ち上がって、ハンカチで義勇の口元を拭いてやった。
本来ならば21歳にもなる男性が、口元を拭かれているなんて恥ずかしいだろう。
しかし、義勇はその泰葉の姿を見て、亡くなってしまった姉、蔦子を思い出していた。