第20章 柘榴
杏寿郎のその一言は瞬く間に広まった。
隊A「おい、炎柱様の話聞いたか?」
隊B「あぁ、想い人がいるって話だろ?
驚いたよ、色事にうつつを抜かさないで有名だったのにな。」
この話は、もちろん柱達にも広まった。
そして皆それは泰葉のことだろうと感づいた。
それに気が立ったのは、実弥、義勇、無一郎だった。
杏寿郎が機嫌がいいのに反してこの3人は機嫌が悪かった。
この話は元音柱である天元にも届いており、それを楽しんでいた。
なんと言っても、噂の張本人が目の前にいるのだから。
天「おぅおぅ、派手に争ってんなぁ!
いやぁ、愉快愉快!…で?噂の煉獄は俺に何の話をしに来たんだ?」
天元はニヤニヤしている。
杏「君は意地が悪いぞ。なんの話か分かっているんだろう?」
天「そんなムッとするなよ。一応俺も恋敵なんだけど?
ま、聞いてやるけどさ!
…で?自覚したか?」
天元はあぐらに肘をつき、頬杖をついて杏寿郎をみる。
杏寿郎は同じくあぐらをかき、真っ直ぐ天元を見据えながら眉を下げる。
杏「あぁ、さすがに自分にも言い訳が出来なくなった。泰葉さんのことが愛しくて堪らない。
俺がまさかこんな風になるとは思わなかった。」
あまりにも素直で直球な台詞が飛び出すと思わなかった天元は、少し狼狽えた。
天「お、おぅ。そうかそうか。
…で、お前はこの先どうしたいと思っているんだよ?
恋仲になりたいと思うのか?それとも…想って終わりか?」
杏「そこが…なんとも悩ましいところだ。
正直、今までの考え通り、明日も分からぬ身だ。
今日にでも恋仲になれたとして、明日命を落とすかも分からない。
そうなったら、彼女の傷が深くなるだろう?
それは俺が死んでも死に切れん。」
天元は杏寿郎らしいなと思いながら話を聞いていた。
天「ま、煉獄の立場からならそう思って当然だろうな。
でも、忘れてねぇか?それを決めるのはお前じゃねぇ。
泰葉がお前を選ぶのならば、それを覚悟の上だろう。
お前のやる事を知っておいて、なぜ死んでしまったの何て言わないだろ。
今お前が考えるのは、自分の事だ。」