第20章 柘榴
泰葉は無事に家に着いた。
手洗い、うがいを済ませて、部屋着にしている浴衣に着替える。
「今日は楽しかったな。
蜜璃ちゃんとも沢山話せたし、色々教えてもらったし。」
「それに、杏寿郎さんも元気そうで良かった。」
杏寿郎のことを思い出した時、抱きしめられた時のことが脳裏に映った。
厚く、逞しい胸元、力強くも優しい腕、陽だまりのような暖かく、爽やかな香り。
慰めかもしれないが、確かに泰葉への思いやりが感じられた。
思い出したら、心臓の鼓動が強くなり、顔が赤くなっていく事が分かった。
泰葉はどうしたのかと思ったが、あまり男性に抱きしめられる機会もないため、動揺しているだけだと言い聞かせた。
「あー、だめだめ、相手は20歳の青年。
しかも、由緒正しい家庭の御子息なんだから。
ご家族が優しくしてくれるからと、自惚れてはだめ!」
泰葉の自分への独り言が、しんと静かな部屋に響いた。
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その晩の杏寿郎はご機嫌だった。
いつもハキハキしているが、誰がどう見ても分かるほどだった。
明朗快活、優しく面倒見のいい兄貴気質の杏寿郎は、男女問わず隊士から人気があった。
女性隊士は柱という雲の上の存在ながらも、お近づきになれないものかと、機会を狙っている。
十二鬼月ではないかと思われた任務だったが、誤報だったらしく
ものの10分で片付いてしまった。
犠牲者もなく、鬼が暴れた後始末だけをしていると、男性隊士が声をかけた。
「炎柱様、今日は何かいい事がありましたか?」
杏「む?そんなに顔に出てしまっているか?
隠しきれていないのは仕方がない。
そうだ!いい事があった!」
隊士たちはその理由がとても気になった。
杏寿郎をここまでご機嫌にさせるもの。
何か美味いものでも手に入ったのだろうか。
女性などの浮いた話もない。
明日も分からぬ身、恋愛ごとにうつつを抜かさないというのは周知していた。
なので、食べることが大好きな杏寿郎の事だ。
食べ物のことだろうと、皆が予想した。
しかし、杏寿郎の口からは意外な言葉が。
杏「ずっと会いたかった人に会えた事が、こんなにも嬉しい事とは
思わなんだ!」
「えっ…」
ずっと会いたかった人…?
それを聞いた女性隊士は皆が絶望した。