第20章 柘榴
午後4時頃、
泰葉も明日はまた蝶屋敷に出向かなくてはならない。
「また何かあれば、いつでもおっしゃってください。」
泰葉はそう言って頭を下げる。
千「お泊まりになって行けばいいのに…」
千寿郎は名残惜しそうだ。
それはもちろん、杏寿郎も同じだ。
「明日も、蝶屋敷でお仕事なので。」
泰葉は困ったように眉を下げる。
「杏寿郎さん、決して無理はいけませんからね!
しっかり食べて、しっかり休んでくださいね。」
まるで子供に言い聞かせるような口ぶりだ。
杏「あぁ、分かっているさ。
また蝶屋敷にでも伺おう。
泰葉さんも、何かあったらいつでも言ってくれ。」
泰葉は「はい」と返事をして、また頭を下げた。
ふわりと紺色のワンピースを翻しながら、煉獄家を出ていった。
杏寿郎は泰葉を門まで見送り、姿が見えなくなるまでそこに立っていた。
今日も任務が入っているため、送ってはやれなかった。
それに、戦える事を思い出した泰葉なら、変な輩に絡まれても撃退できるだろう。
短時間だったが、それだけでも杏寿郎は満たされた。
泰葉を抱きしめた時の温もりをまだ覚えている。
柔らかな泰葉の感触。
果実のような瑞々しい香り。
それだけでもドクンドクンと己の鼓動を感じた。
会えただけで、少し触れただけでこんなに満ち足りた気持ちになる事を今まで感じた事が無かった。
心から泰葉に惚れている。これは隠す事が難しそうだ。
些か癪だが、天元に報告しなければならないなと思った。