第20章 柘榴
泰葉はポツリポツリと話し始めた。
「私は何故か、このゼリーは覚えていて、よくご褒美として買っていました。
美味しいのも確かなのですが、懐かしく、穏やかな気持ちになるので。
でも、それがなぜだか先程分かったんです。
このゼリーを初めて食べたのは、生みの父が買ってきてくれたものでした。
私が10を超えたくらいのこと。
父はこのゼリーを売っている、近くのお宅に用があったと言っていました。
そこには男の子が2人いて、お父様に見た目がよく似た微笑ましい家族だと。お母様は病に患われてしまったけれど、皆心に炎が灯っていて一生懸命に看病をしている、家族想いな方々なんだよ。と、私に話してくれた事がありました。」
槇「それは…
もしや瑠火の見舞いに来てくれた時のことか…?」
泰葉は頷いた。
「私はその話を忘れてしまっていたのですが、ここでこのゼリーを食べられたことで、完全に分かりました。
あの時のご家族は、煉獄家のことだったのですね。
西ノ宮家は愛情深い一族でした。
同じく深い愛情を持つ者には、献身的に協力をしていきたい。
そう思っていたので、おそらく父は瑠火様の治癒をしたかったのだと思います。
しかし、瑠火様はそれをお断りになり、この世を去られた。
私は、父よりも更に大きな愛情をお持ちだったのだと思います。」
泰葉の目に涙が浮かぶ。
「だって、いくら掟があり5回破ってしまえば寿命が半分になってしまうとはいえ、瑠火様は一度しかない命。
その命に変えて、父の心配をしてくださったのです。
運命に背くことはせず、家族を見守ると…。
絶対に、できるならば生きて見守っていきたかったはず。
瑠火様は、お母様は、大変愛情深い方ですね。」
ぽたぽたと涙を流す泰葉。
すると、ふわっと杏寿郎が抱きしめた。
杏「母の話をしてくれて、ありがとう。
涙を流してくれて、ありがとう。」
杏寿郎がそう言うと、千寿郎も泰葉に抱きついた。
そして槇寿郎が全員を包むように抱きしめた。
槇「ありがとう…」