第20章 柘榴
泰葉の好物…
杏寿郎はそう言われて、その箱から目が離せなかった。
泰葉と関わる事が増えて、いろいろな面を知った。
しかし、好物はまだ知らなかった。
一体、彼女はどんなものを好むのだろうか。
そう思うと、期待で胸が高鳴った。
泰葉が、細長い箱をパカっと開けると、
そこには丸い器が4つ入っていた。
「これは、柘榴の入ったゼリーという食べ物です。
寒天でできているそうですよ。
口当たりも良くて、甘酸っぱいんです。」
泰葉の声は弾んでいた。
よほど嬉しいのだろう。
そのゼリーという食べ物は、透明な器に入っており、
そこの部分は柘榴の赤色、そこから上にかけて薄くなり、透明になっていく。
数粒の柘榴の粒が水の中で泳いでいるようだ。
千「わぁ、泰葉さんらしいお菓子ですね!」
杏「あぁ、この柘榴の粒が金魚のようだな。」
珍しそうに眺める兄弟。
その姿を微笑ましく思いながら泰葉は店主がつけてくれた匙を渡す。
槇「しかし、まだ柘榴の時期は遠いだろう?」
今は春先。
柘榴の旬は秋だ。
「これに使われている柘榴はとても甘い蜜につけられているので、初夏くらいまで作っているそうです。
夏の間は夏蜜柑のものになって、また秋になったら仕込むと言っていました。
だから、秋に売られた時のものは、また違う味がするんですよ。」
にこにこと嬉しそうに話す泰葉をみて、
秋になったら絶対に買ってあげよう
と3人は心に誓った。
4人は
金魚のような柘榴の泳ぐゼリーを匙で掬う。
ぷるっと弾けるように震える様がとても美しかった。
口に入れると、寒天の独特な食感と、ほのかに甘い。
柘榴の赤色の部分を口に入れれば、甘さの中に甘酸っぱい爽やかさが感じられた。
杏「これは…美味いな。」
杏寿郎から発せられたと思えないほど、静かな感想だった。
それほど衝撃的だったのだろう。
千「僕、このような食べ物は初めてです!」
槇「ほぅ。これは甘すぎず、甘いものが苦手でも美味いな。」
泰葉は喜んでもらえて嬉しいと思った。
「これは、私が唯一覚えている西ノ宮家での思い出です。
煉獄家の皆様にも味わっていただきたくて。」