第19章 行き違い
泰葉が、飛び出していってから10分程経った頃、
杏寿郎が帰ってきた。
杏「ただ今帰りました。」
千「兄上!おかえりなさい…どう…されました?」
杏寿郎の周りには、落ち込んだ空気が漂っていた。
杏寿郎は、千寿郎の顔を見るのも程々に自室に向かっていった。
杏「千…俺は少し部屋で…」
と、言いかけた時
杏寿郎はくんっと鼻を鳴らす。
さつまいものきんぴらの匂いがする。
他にも沢山の料理の匂い…
最近千寿郎も作ってくれたが、これは間違いなく…
杏「千寿郎、泰葉さんが来たのか⁉︎」
杏寿郎の表情がパッと明るくなった。
千「え!そ、そうなのですが…今、ちょうど出てしまって…。」
杏寿郎はピシッと固まり、また落ち込んだ空気を漂わせた。
千「あ!でも…もう…」
杏「千、もう何も言ってくれるな。
兄は少し部屋で休むとする。」
そうして、自室に入りピシャリと襖を閉めてしまった。
槇寿郎も困ったように見ていた。
千「父上…兄上は…」
槇「あぁ、間違いなく泰葉さんに惚れ込んでいるな…」
泰葉はもうすぐ、帰ってくるのに…
杏寿郎はまだそれを知らない。
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〜杏寿郎視点〜
杏寿郎は文机に伏た。
今日は散々だ…。
ただ泰葉さんに会いに行ったのに、この見事な空振りは何なのだろうか…。
しかし、なぜ甘露寺の家にいたのに、ここで料理を作っていったのだろうか。
もう少し早く帰ってくれば会えたと言うこと。
なぜ、走ってこなかった…!
今更悔やんでも仕方がない。
明日も会いにいってみるとするか。
胡蝶は呆れた顔をするかもしれないが、致し方あるまい!
よもや、俺が女性にこんな風になるとは思わなかった!!
悶々と考えていると、
「ただいま戻りました!」
と、聞きたかった声がする。
あぁ、幻聴まで聞こえるようになったのか。
すると、
千「兄上、兄上ー!」
と、千寿郎が呼ぶ声がする。
千寿郎。
兄を少し放っておいてくれ。
スパーン!
勢いよく襖を開ける千寿郎。
千「兄上!泰葉さんが戻られましたよ!」
何⁉︎
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