第19章 行き違い
千「あ、その…兄上は…」
千寿郎が、しどろもどろしていると、後ろから槇寿郎がフォローに入った。
槇「最近食欲がないようでな。
また、色々作ってやってくれないか。」
「そうだったのですね。
分かりました。できる限りのことはいたします。」
槇寿郎のフォローにホッとする千寿郎。
槇寿郎は、泰葉のエプロン姿に多少驚いたが、顔に出ないようにするのに必死だった。
そうして、泰葉は台所に立ち、また色々と作り始めた。
さつまいものきんぴらはもちろん、他にもたくさん作った。
煉獄家の台所は食材が豊富に揃っているので、作るのは楽しかった。
千「今回もたくさん作ってくださり、ありがとうございます!
父も僕もですが、兄上は本当に泰葉さんの…」
と千寿郎が言いかけて止まった。
槇寿郎が泰葉の後ろで、それ以上お前が言うなと、首を振っていたからだ。
千「お料理が美味しいと思ってるんです!」
何とか、無難な言葉に変えた。
千寿郎の様子に少し疑問に思ったが、褒めてくれたのだと嬉しくなった。
「杏寿郎さんは、お出かけになってるの?」
泰葉は杏寿郎を見かけないな、と思っていた。
千「はい。どこに行ったのかは分からないのですが…」
まさか、見事に泰葉と杏寿郎が行き違いになっているとは、誰も思わないでいる。
「そっか…」
泰葉は残念に思った。
久しぶりに顔を見れるかと思っていたが…いないのは仕方ない。
それは槇寿郎と千寿郎も同じだった。
せっかく杏寿郎を元気付けようと、泰葉にわざわざ来てもらったのに、本人がいないのでは…と眉を下げる。
千「もう少しで帰ると思いますので、少し休んで行かれませんか?」
「うん、そうさせてもらおうかな。
…あ!そうだ、確かこの辺に中田屋さんって和菓子のお店あったよね?」
千「中田屋さんは、確かに近くの商店街に…
そこがどうかしましたか?」
「そのお店に、私の大好きなものがあるの!
さっぱりして美味しいものだから、ちょっと買ってくるね!」
そう言って、泰葉は煉獄家を飛び出した。