第18章 恋情
杏寿郎達は、女の子の家へと向かって歩いていた。
どうやら女の子の家は、この町の長の家のようで
助けた場所から少し距離があった。
女の子はカタカタと小さく震えている。
鬼に喰われるかもしれなかったのだ。
恐怖が残っているのは仕方ない。
しかし、少しでも安心して欲しいと思った杏寿郎は
泰葉が唄っていた子守唄を口ずさむ。
「赤い金魚
なぜなぜ赤い
赤いお花を
摘んだから」
女の子はその唄を不思議そうに聞いていた。
杏「初めて聞いたか?
俺も最近初めて聞いた。
金魚の精が教えてくれたんだ。」
女の子「金魚の…精…?」
杏「あぁ、とっても優しくて、暖かい、女性の姿をしている。」
杏寿郎と話すにつれて、震えも止まってきたようだ。
女の子は杏寿郎の顔を見ながら、その話を聞いていた。
杏「確か、その続きもあったな…
『赤いお日様
なぜなぜ赤い
赤い金魚を
好いたから』」
唄の続きを聞いて、ふふっと笑った。
女の子「私も金魚の精に…会ってみたいな。
お兄ちゃんは、その金魚さんのこと好きなの?」
女の子から突拍子もない質問をされ、ピクリと肩を震わせる杏寿郎。
杏「それは、どういう…?」
杏寿郎はしどろもどろしている。
少女の年齢は千寿郎くらいだと思うが、特に女の子は多感な時期である。
適当に返しておいていいものか、ちゃんと答えるべきなのか…。
真面目な杏寿郎は悩んでしまった。
女の子「お兄ちゃんはお日様みたいな人だから。
そして、その金魚さんの話をした時、お顔が赤くなった。」
女というのは勘の鋭いものだと、天元から聞いたことがある。
しかし、これほどまでとは…
杏「そうだな!
俺はその金魚の精が好きだ!
少女には敵わないな!」
はっはっはっ!と高らかに笑う杏寿郎に女の子は釣られて笑った。
女の子「本当はお兄ちゃんの顔、赤いか分からなかったよ。
暗いから。」
杏「む!何…⁉︎」
つまりは嵌められたということ。
女の子に杏寿郎は一本取られたのだ。
女の子に杏寿郎は末恐ろしいと、冷や汗をかいた。