第18章 恋情
杏寿郎は流れる涙を受け入れて、
泰葉の温もりを感じていた。
なんて温かいのだろうか。
俺は、寂しかった。
落ち込む父と、泣き叫ぶ幼い弟。
しかし、自分も悲しかった。
最後に母に抱きしめてもらったのは、
母と約束をしたあの日。
母も温かかった。
冷たくなってしまった母をみて、
もう抱きしめてもらえない。
そう思った。
寂しくて、悲しくて
声を大きく張り上げて泣き叫びたかった。
でも、父と弟を俺が守るため、
我慢しよう、強くなろうと思ったんだ。
俺が強くなれば
父も少しは傷が癒て、
千寿郎も、気持ちが晴れると思った。
けれど、現実は甘く無かった。
母と泰葉さんは、決して似ていない。
しかし、
こうして抱きしめられ
言葉をかけてくれる
人の心を溶かしてくれる。
なんで心地いいのだろうか。
あの日、君の横顔に見惚れた。
声をかけたくなった。
俺の瞳を綺麗と言った時、
君の方が綺麗なのにと思ったんだ。
蝶が指に止まって喜ぶ姿も
シャボン玉で、無邪気にはしゃぐ姿も
他人の事を自分の事のように喜ぶ姿も
悲しむ姿も
怒る姿も。
泰葉の笑顔に、
言葉に
仕草に…
俺は惹きつけられ
吸い寄せられていくんだ。
これは、敬愛か?
それとも優しさへの甘えか?
君を知りたい。
もっと優しさに触れたい。
君にも優しさをあげたい。
これが…そうなんだな。
俺は恋情を抱いている。
あぁ、
俺は
泰葉のことが
好きなんだ。