第18章 恋情
泰葉に杏寿郎も目を逸らしていた
寂しさを見つけられてしまい、
杏寿郎はとても動揺していた。
何より、どうして良いか分からない。
杏「さ、寂しくなど…」
杏寿郎は少しばかりのプライドで強がった。
「…本当ですか?
私は、杏寿郎さんがお母様との話をしているのを聞いたことがありません。
槇寿郎様にとっての瑠火様、千寿郎くんにとってのお母様。
杏寿郎さんにとってのお母様は?
あなたに、全てを押し付けたお母様なのですか?
それ以前に、あなたを大切に愛してくださっていたから、
お母様との約束を果たそうとしていたのですよね?」
杏寿郎は驚いた。
杏寿郎は泰葉に一度も母との約束について、話したことはない。
杏「どうして…その約束を知っている…?」
泰葉は胸に杏寿郎の重さを感じながら、
目を閉じた。
「ごめんなさい、これは私の憶測です。
列車の後の戦いの際、あなたは『責務を全うする』と、おっしゃっていました。
自分の中で決めた責務かもしれませんが、自分の命を賭けてまで、他人を守り抜こうとしているのは、自分で決めたものよりも、さらに大切な人との約束だったんじゃないかな、と思ったんです。」
泰葉は
「私なら自分一人で決めた決意なら、死の直前に揺らいでしまうから…」
と、眉を下げて笑った。
「でも、杏寿郎さんならご自分の決意でも、全うでき…」
泰葉が杏寿郎の顔を見ようと思った時、
杏寿郎の手のひらで顔をぽふっと覆われてしまった。
泰葉の膝には杏寿郎の涙が、ぽたたっとこぼれた。
杏「すまない、少し動かないでいてくれないか。」
泰葉は、ホッと肩の力を抜いて頷いた。
やっと涙を流してくれた。
そう思った。
杏寿郎は泰葉の顔から手を離し、
泰葉の肩を両手で掴む。
声を押し殺して泣いた。
自分にもまだ流れる涙があったのだと思うほど。
油断すれば声を上げてしまいそうだった。
泰葉は
左手を杏寿郎の後頭部に添えて、
右手は背中をさする。