第17章 気持ち
杏寿郎は、つくづく泰葉の心を読む力に感心した。
正直、この気持ちについて、特に泰葉には詮索されたくはなかった。
杏「泰葉さんは、いろいろな力を持っているな。」
杏寿郎は柔らかく微笑んだ。
「いろいろ…?」
杏「あぁ!父をあのように以前の父に戻してくれた。
西ノ宮家の者だとしてもだ。
あれだけ人を寄せ付けなかった父にぶつかり、心を開いてくれた。
千寿郎も、すぐに君を慕っている。
泰葉さんに会って数日は君の話ばかりだ!」
泰葉は煉獄家に初めてきた日のことを思い出した。
「槇寿郎様は、私と会う前に炭治郎くんと会っていました。
おそらく、彼と会った時にもうすでに、改心なさろうとしていたはずです。
しかし、きっかけがなかったのでしょう。
私があのように、生意気な態度を取ったから…」
杏「いや、竈門少年の影響もあったかもしれないが、父は泰葉さんの言葉だから受け入れたのだと思う。
母を亡くしてから、真っ直ぐ父を見てくれる女性がいなかったのだろうな。」
母…
この家族には大きかったにも関わらず、失われてしまった存在。
「千寿郎くんが熱で寝ていた時、手を伸ばしてお母様を呼ばれていました。」
杏寿郎はハッと目を開く。
そして、すぐに目を細めた。
杏「母が亡くなったのは、千寿郎が本当に小さな時。
母との記憶はほとんどないだろう。
千寿郎には母に甘えた記憶もない。
寂しい思いをさせていたからな…」
杏寿郎がそう話している時、
泰葉は杏寿郎に隠れている寂しさに気づいた。
母を失って父は心を痛めた。
弟は母に甘えた記憶さえなく、寂しい思いをさせた。
…では、あなたは?
父、母というのは、誰しも特別な存在。
自分を生み出し、
無償の愛を注いでくれる存在。
父と、弟だけでなく
あなたも失ったんでしょう?
そう思った時、
泰葉は杏寿郎の腕を引いていた。
不意打ちで腕を引かれた杏寿郎は
グラっと体勢を崩す。
そのまま、杏寿郎は泰葉の胸元に倒れ
抱きしめられていた。