第17章 気持ち
数品作ったところで、千寿郎が困った顔をした。
千「お醤油が…切れてしまいました。」
本当は、筑前煮と玉ねぎのたまり漬けを作りたかったが、どちらもお醤油を使う。
「残念だけど、お醤油がないんじゃ仕方ないわね。」
泰葉が眉を下げる。
千寿郎は出来るだけ泰葉に多く教えて欲しかった。
それと同時に作っていってほしかった。
千「僕、買ってきます!」
「えっ⁉︎ それじゃ、私が…」
泰葉が代わりに買いに行こうとすると、千寿郎が止めた。
千「僕がお願いしたことです。
お時間、大丈夫ですか?急いで行ってきますので!」
泰葉は特に予定もなかったので、大丈夫だと頷いた。
すると、早速千寿郎は駆けていった。
千寿郎がいなくなった今、先に料理を進めるわけにもいかず、手持ち無沙汰になってしまった。
泰葉は中庭に面した廊下で日向ぼっこでもしようと、腰掛ける。
すると、人の気配がした。
杏「隣、よろしいだろうか?」
見上げると、杏寿郎の姿。
着流しに着替えていた。
「どうぞ」
泰葉が微笑むと、嬉しそうな表現を浮かべた杏寿郎が座る。
杏「千はどうしたんだ?」
「お醤油が切れてしまったので、急いで買いに行かれました。」
杏「む。では今はこの家に俺たちだけだな!
父は医者に行ったんだ。おそらく泰葉さんの力で、肝臓は良くなったようだが、一応定期的に見てもらっているそうだ。」
槇寿郎は改心してから、医者にも行っている様子に安心した。
「そうですか。あれだけの量を飲まれたましたからね。
完全に良くなるまでは見ていただいた方が良いでしょう。」
泰葉が杏寿郎の方を見ると、大きな瞳でじっと見られていた。
杏「泰葉さん、朝から不快な思いをさせてすまなかった。
少々自分にも分からないことが起きてな。
うまく処理できずにいた。」
頭を下げる杏寿郎。
泰葉は詳しく聞こうかと思ったが、その時は自分から言ってくるだろうと深掘りはしなかった。
「大丈夫です。お話したくなったら教えてください。」