第17章 気持ち
泰葉達が風呂に入っている間
男たちはそれぞれ部屋で寛いだり、軽く眠ったりと
自由に過ごしていた。
杏寿郎と天元は縁側に座って、酔いを覚ますため茶を飲んでいた。
こうしていると、鬼がいる世界が信じられない。
杏「早く鬼のいない世界にしたいものだな。」
天「あぁ。そうだな。
でも、それがもう少しで実現するかもしれねぇ。
そうだろ?」
天元が杏寿郎を見る。
杏寿郎は前を見据えたままだ。
天「泰葉がその為にお前の前に現れた。
俺にはそうとしか思えない。」
杏寿郎は駅の売店で出会った時のことを思い出した。
杏寿郎が泰葉を初めて見たのは、彼女が真剣に弁当をえらんでいる姿だった。
今思えば、その時すでに彼女に惹かれていた気がする。
癖のある黒髪。
通った鼻筋。
横から見ても分かるぽってりとした唇。
杏寿郎がこんな風に女性に興味を持つことが珍しかった。
人間皆一緒。
そう思っていたのに、彼女から目が離せなかった。
杏「なぁ宇髄。
君は鬼との戦いが終わってからのことを考えた事があるか?」
天元は目を見開いた。
天「…どうした、お前からそんな事言い出すなんて。」
杏寿郎は鬼を倒すためだったら、自分の命も惜しまない。
明日の命がわからぬ身。
自分の未来などは想像しない。
そういう考えだった。
それなのに、鬼との戦いが終わったら…と未来の話をしている。
泰葉と出会ったからだろうか。
天元は目を細めた。
天「引退を決めてからは、考えるようになったな…。
これから、嫁達には今までの労いをしてやりたい。
長く生きる事を考えるようになった。
まだまだ一線を駆けるお前たちには、申し訳ないがな…。」
杏「いや、それでいいと思う。
奥方達と幸せに暮らす事を考えていってくれ。」
杏寿郎は、天元を見て微笑んだ。
天「お前も…考えるのか?」
杏寿郎は目を細めて月を見た。
杏「…分からない。
そんな未来を見て良いのか、見ない方が良いのか。」