第17章 気持ち
し「その治癒ができるのはこの世に1人なんですよね?」
「うん。そうみたい。」
そう答える泰葉に、しのぶは疑問が浮かんだ。
泰葉が熱でうなされた時、杏寿郎が口移しで薬を飲ませた。
それまでは泰葉にも杏寿郎にも負傷箇所があったはず。
しかし、あの後は2人とも負傷した部分は完治していたのだ。
し「もしかしたら…その許婚の方は、適合者では無かったかもしれません…」
「え?」
しのぶはこの可能性を伝えようかと思ったが、まだ仮説。
もう少し確信を持ててから伝えようと思った。
し「そんな気がしたんです。」
しのぶはそう微笑んだ。
蜜「…で、じゃぁ、気になる方とかは?」
蜜璃は変わらずウキウキしている。
「気になる人…
特に…いないかな?」
その答えに蜜璃は少し不満そう。
蜜「えー!じゃぁ、じゃぁ、煉獄さんのことってどう思う?」
そう言われて泰葉の頭には、杏寿郎の眩しい笑顔が浮かぶ。
「…とても、暖かい方だと…思います。
優しくて、強いですよね。」
蜜「暖かい…かぁ!そうだね!煉獄さんにぴったりな表現だわ!」
し「私にはどちらかと言うと熱すぎるくらいですけどね。」
しのぶの言う事も、わかる気がする…と、苦笑した。
「…でも、なんだろう。
少し寂しそうな人だとも思う。」
し「寂しそう?」
しのぶも蜜璃も、杏寿郎にそのような事を思ったことがなかった。
母を亡くして、父も荒れてしまった。
しかし、彼は溌剌として仲間に分け隔てない笑顔を見せていたからだ。
蜜「…そっか。じゃぁ、その寂しさを解いてあげられるのは、泰葉ちゃんなのかもしれないわね。
私達、一度もそんな風に思ったことがなかったもの。」
「…私に、できたら良いんだけどね。」
少ししんみりしていると、ボーッとしてくるのが分かった。
「さ!上がりましょう!のぼせちゃう!」
3人は気付けば随分と長湯していたことに気づき、慌てて風呂から上がった。