第14章 お館様
泰葉と杏寿郎は並んで歩く。
「お館様とは、どんなかたなのでしょうか。」
泰葉は緊張していた。
杏寿郎はその姿を見て、ふっと笑った。
杏「そこまで緊張する事はない。
お館様はとても優しい方だ。
泰葉さんの一族のこともご存知だから、聞かれた事を答えていれば大丈夫だ。
それに、智幸さんからも手紙を預かっている。
貴女がまだ自分の力を分かりきっていないだろうと。」
そう聞いて安心した。
もし、答えられなくなってしまったらどうしようかと思っていたので、父からの手紙があれば心強い。
「杏寿郎さんも…一緒にいてくれますか?」
不安気に杏寿郎を見る泰葉。
杏「あぁ!席を外すよう言われない限りは、そばにいるつもりだ!」
杏(親に連れられた子供のようだな!)
しばらく歩き、人通りの無いところとなった。
杏寿郎は立ち止まり、泰葉に手拭いを渡す。
杏「すまないが、これで目隠しをしてくれないか。
鬼殺隊本部は基本的には一般人には知られてはいけない。
ここからは俺が君を抱き上げて運ぶ。」
抱き上げて運ぶという事は…
また、横抱きで走るのだろう。
泰葉も、戦闘時には早く走ることもできる。
しかし、自分で出すスピードと、人に出されるスピードでは体感が違う。
もうすでに目を回しそうだ。
泰葉は、言われた通り手ぬぐいで目元を覆って、後ろで結ぶ。
杏寿郎が途中で解けないように、仕上げをする。
そして、確認できたところで泰葉を横抱きにして抱えた。
泰葉はもう視覚が奪われてしまったので、されるがまま。
しかし、改めて横抱きにされると手をどこに置いたらいいのか分からなかった。
それに気づいた杏寿郎。
杏「泰葉さん、手は俺の首に回してくれないか?
あと、舌を噛むといけないので、喋らないように。
何かあったら肩を叩いてくれるといい。」
泰葉は頷いて、杏寿郎の首に腕を回す。
いつもより、杏寿郎を近くに感じる。
(近いな…、杏寿郎さん嫌じゃないかしら…)
そう感じているのは杏寿郎も同じ。
泰葉の果実のようないい香りがふわっと香る。
杏(女性を抱き上げるのは任務でも何度か経験があるが…
なぜこんなに緊張する…。)