第14章 お館様
朝。
朝食を済ませ、泰葉は身支度をする。
今日はいよいよお館様との対面の日だ。
家から持ってきた、勿忘草色に菖蒲柄の着物を身に纏う。
これは杏寿郎が見繕ったものだ。
花枝が綺麗に髪を結う。
そして、金魚の髪留めでとめた。
上品に化粧も施し、すっかり気品溢れる姿となった。
支度が済んで、各々玄関口に集まっている。
泰葉の登場に、煉獄家3人と智幸まで
ほぅ…と息を呑む。
「お待たせいたしました。」
泰葉の声で皆、我に帰る。
智「何から何まで、本当にありがとうございました。
娘をどうぞよろしくお願いします。」
花「また、お会いできる日を楽しみにしております。
どうぞ、お身体を大切になさってください。」
槇「いや、こちらこそ楽しいひと時を過ごさせてもらいました。
またいつでもいらしてください。」
千「お気をつけて。
今度、東北にも行ってみたいです!」
杏「あぁ!そうだな!
どうか、お気をつけて。また何かありましたら、ご連絡いたします。」
其々挨拶を交わす。
泰葉は両親に抱きついた。
「今回は心配かけてごめんなさい。
でも、これからも頑張ります。
2人も体に気をつけて。また手紙書くからね。」
2人は頷き、うっすら涙を浮かべていた。
泰葉が両親から離れようとした時、
花「運命の人は、案外近くにいるものよ。」
と、花枝は囁いた。
茶目っ気を含んだ顔である。
「分かった。気をつけてみてみる。」
泰葉はふふっと笑った。
智「では、私たちはこれで。
泰葉、くれぐれも気をつけて。
杏寿郎くん、お願いします。」
そう言って、駅へと向かって歩き出した。
泰葉達は2人の姿が見えなくなるまで、見送っていた。
しばらくして、杏寿郎が泰葉に向き直った。
じっと見つめる杏寿郎。
杏「泰葉さん、今日の着物もよく似合っている。
その、どうして今日はこの着物を?」
杏寿郎は自分の着物を選んでもらえて嬉しかった。
「…どれも素敵で迷ったのですが
この着物は、多分杏寿郎さんが選んで下さったのではないかと思ったんです。
今日は、杏寿郎さんとお館様との対面の日。
だから、この着物を選びました。
違いましたか?」