第14章 お館様
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その頃、中庭に面した廊下に腰掛け、智幸は杏寿郎と話をしていた。
智「杏寿郎くん、明日は鬼殺隊の御当主に会われるんだよね?」
杏「はい。どうかされましたか?」
智「うん。この手紙を…渡してくれないかな。
泰葉の力について、詳しく書かれている。
まだ泰葉自身も分からないことが多いと思うから。」
泰葉は今まで、戦闘能力があることも、ましてや治癒能力もあるとは知らずに生きてきたのだ。
戸惑っているに違いない。
杏「分かりました。明日必ずお渡しいたします。」
智幸は月を見上げる。
智「昔はよくこうやって3人で月を見上げて、いろいろな事を話していたんだ。
泰葉を引き取ってから、しばらくはピクリとも笑わない子だった。親も一族も失ったのだから、当然だろうけどね。
だから、全てを閉じ込めてしまったのだろうな。」
智幸は杏寿郎の目を見た。
智「泰葉からの最近の手紙に、君たちの話が出てきていた。
とても、綺麗な色をした瞳を持つご家族だと。
その瞳と同じく、心が綺麗な方々だと…そう書かれていた。
そこには煉獄家とは一言も書かれていなかったけれど、ここに来て君たちの事だって、すぐに分かった。」
真っ直ぐに見てくる智幸の目を杏寿郎は離すことができなかった。
智「私たちから離れて暮らしていく事を選んだのは、泰葉だ。
だから、私たちはすぐに助けてやれない。
…頼む、泰葉を…娘を守ってやってくれ。」
杏「はい。必ず、泰葉さんをお守りします。」
この決意は、炎柱の煉獄杏寿郎のものか、
それとも、1人の男の煉獄杏寿郎か。
自分ではまだ分かっていなかった。
しかし、泰葉を必ず守る。
それだけは固く心に誓った。