第14章 お館様
ずっと奥さんと呼んでいたが、彼女の名前は咲子といった。
今は出かけているが、旦那さんは信明という。
「私、ずっと名前も聞かないで、奥さんとばっかり呼んでました…
ごめんなさい。」
泰葉は申し訳ないと、頭を下げた。
咲「いいのよ!泰葉ちゃんにそう呼ばれるの、私好きだったから!」
あははと笑う咲子。
そして、泰葉の周りにいる大人たちを見回した。
咲「えっと…
こちらが、泰葉ちゃんのご両親よね?
お久しぶりでございます。」
智「いつも泰葉がお世話になっております。
今回の件も、お手紙をいただき大変助かりました。」
いえいえ、と咲子は首を振り
泰葉の顔を見た。
咲「もしかして…こちらの方が」
「そう、私を色々と助けていただいた、煉獄様よ。」
そう聞いて、パァッと表情を明るくさせる咲子。
咲「あなた方が!
泰葉ちゃんから、お話は伺っております。
今回は本当にありがとうございました。」
深々と頭を下げる咲子。
泰葉の親が増えたようだ。
しばらく、日頃の泰葉の様子を話したりした。
第三者から見た自分を話されるのは、少し恥ずかしかったが、それ程自分をよく見てくれているのだと、ありがたく思った。
すると、咲子は手をパチンと叩く。
咲「泰葉ちゃん、あの素敵なお着物、私も着たところが見てみたいのだけど…」
その着物は煉獄家から贈られたもの。
お披露目する機会を逃していた。
「そうね、せっかく皆さんがお揃いだから、見ていただこうかしら。」
そう言って、泰葉は自宅へと向かう。
そして、意味を分かった杏寿郎が後へと続いた。
花「本当に杏寿郎さんは、優しいのね。」
咲「えぇ。良い方と出会って良かったですね。」
その言葉に、みんなこれから祝言でもあげようかという気持ちになった。
そんなことは知らない2人。
杏「泰葉さん、俺も運ぼう!
俺たちが贈った着物だろう?」
杏寿郎は、嬉しそうだ。
「えぇ。助かります。今開けるので待っていてください。」
そして、玄関の鍵を開けようとした。