第14章 お館様
智幸はにっこり笑って頷いた。
智「無効です。安心してください。」
含んだ言い方をする智幸。
槇寿郎と千寿郎は、杏寿郎を見る。
杏寿郎はその含みに気づいていないようだが、とても満足気な表情で前を見ていた。
杏(許婚はいない!良かった!)
しかし、一つ気になる事。
杏「しかし、そうなると…泰葉さんの治癒をできる者は…」
智幸はその言葉に表情を曇らせる。
智「そこなんです。
今までは、普通に生きていれば、特別な力など必要なく、運命の下に死を迎えたでしょう。
しかし、戦うことを思い出し、鬼と対面するようになった今は、その治癒が必要となってしまった。」
千「じゃ、じゃあ、許婚の方に協力してもらうことは…」
智幸は首を振る。
智「それはもう叶いません。彼は…既に家庭を築いています。
妻以外の女性に、体液となるものを提供するのは、拒まれるでしょう。」
杏寿郎は申し訳ない気持ちになっていた。
あの時、自分が泰葉を巻き込まなければ。
売店で面識を持たなければ…。
その会話が聞こえ、杏寿郎の気持ちを読んだかのように
花枝が振り返る。
花「杏寿郎さん、私たちは泰葉が出会ったのがあなたで良かったと思っています。
それに、その許婚が適合者だったかは分かりません。」
急にそういう花枝の言葉を泰葉は分かっていなかったが、
杏寿郎を見てニコッと笑った。
その笑顔を見て、杏寿郎は先程の考えなど飛んでいってしまった。
杏「ありがとうございます!」
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「ごめんください、泰葉です!」
泰葉は玄関を少し開けて呼びかける。
するとバタバタと足音が聞こえてきた。
『泰葉ちゃん⁉︎』
驚いた顔で駆けてきたのは、隣の奥さんだった。
涙を目にいっぱい浮かべ、泰葉を抱きしめる。
『朝いなくなってから心配だったのよー!
無事で良かった。大丈夫?変なことされなかった?』
すごい勢いで泰葉を心配していると、客人が多いことに気がついた。
奥さんは『あらやだ!』と泰葉を離し、全員を客間へ案内した。
お隣さんは煉獄家程ではないが、広い方だ。
客間に大勢で押しかけても、ゆとりがあった。