第12章 記憶
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しのぶは、杏寿郎を診察室へと呼び出した。
杏寿郎は先程の失態を咎められるのかとヒヤヒヤしていたが、咎められるのは別の理由だった。
し「先程の件ですが、煉獄さんは何をしたのですか?」
しのぶは気付いていた。
熱も、傷も無くなっている事に。
杏「俺が退席しようとした時、泰葉さんは熱で苦しみ出した。
だから俺は薬を飲ませた!」
杏寿郎が薬を飲ませたのは間違いはない。
し「しかし、あの薬に即効性はありません。少なくとも3日は飲まなくては熱も完治しないはず。
でも、泰葉さんは熱も下がり、傷も無くなっていた…。
他に煉獄さんは何もしなかったですか?」
そう言われて、うーん…と考える杏寿郎。
杏「他に…
俺は泰葉さんが自分では薬を飲むのができなかったから、俺の口に含んで飲ませただけだからなぁ…。」
しのぶは耳を疑った。
今、杏寿郎は何を言っただろうか。
し「ま、まさか…、口移しで飲ませた…?」
杏「あぁ!ちゃんと飲めていたぞ!!」
ため息しか出ないしのぶ。
し「いいですか、煉獄さん。
今、あなたにも何か病気があったらどうするんですか?
今回はやむを得なかったかもしれませんが、口移しは医療行為的に適切ではありません!」
杏「大丈夫だ!俺は元気だ!」
し「そういう問題ではありません。」
この押し問答はしばらく続いて、しのぶが折れたのだった…。
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杏「そして、まだこの治癒力については、分かっていない。
泰葉さんの体調が戻ったと同じく、俺の足も治っている。
明日にでも父に聞きたいのだが、家に帰っても構わないだろうか?」
し「煉獄さんは、ほぼ足の負傷しかありませんからね。
それが治った今、帰っても大丈夫です。
…お話、できそうですか?」
しのぶは、杏寿郎の親子関係を心配していた。
まだ聞けていないということは、槇寿郎が拒絶しているのだと思っていた。
その心配とは裏腹に、杏寿郎は明るい表情でしのぶを見た。
杏「父は以前に戻りつつある!
心配をかけたな!大丈夫だ!!」
しのぶは驚きを隠せなかった。
「そ、そうですか…」
自暴自棄になり、柱という立場まで投げ捨てた。
煉獄家に何が起きたのか…
不思議でならなかった。