第12章 記憶
しのぶはそれ以上聞くことができなかった。
泰葉はなんだか、期待外れな事になってしまったような、少し申し訳ない気持ちになった。
「…しのぶさん、炭治郎くん達はどうしたかな?
あと、禰󠄀豆子ちゃんも…。」
泰葉は話を変えようと、気になっていた彼らの様子を尋ねた。
し「今のところ、誰も目を覚ましません。
命には別状ないのですが、特に炭治郎くんは重症です。」
「そっか…。私、今まで…鬼っていうのは、人がつくったお話の中のものだと思ってた。
子供が悪いことしないように、大人が話すような…」
し「そうですね。本当はそうであって欲しいですが…」
泰葉が吉原で見たあの者は、完全に人間ではなかった。
そして…禰󠄀豆子も。
し「今回は…辛い思いをしましたね。
記憶を持っていて安心しましたが、正直覚えていない方が良いのかとも思いました。
泰葉さん…どうか、気持ちを強く持ってくださいね。」
しのぶは心に対する薬は出せない。
こればかりは本人の精神論だ。
「ありがとう。
そういえば、しのぶさんも柱なんだよね?
あんな生き物といつも戦っているなんて…すごいとしか言えないや。」
しのぶはゆっくりと首を振った。
し「鬼殺隊にいる者達は殆どが身内を鬼に殺された者。
怒り、恨み、憎しみを原動力に鬼と戦うものが多いのです。
私もその1人。
煉獄さんみたいな、家系で鬼殺を誇りに戦っている人の方が、珍しいかもしれませんね。」
毎日他人の命を守る為、自分の命をかけて戦っている。
ただの善意でできる仕事ではない。
鬼殺隊というのは、泰葉が思うよりもずっとずっと深いものがあるのだ…と感じた。
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その頃、杏寿郎と天元
天「まったく、お前が女にあんな事するなんてなぁ。」
ふぅっと息を吐いて、自分のベッドに腰掛ける。
杏「決して彼女を襲おうとしたわけではない!」
仁王立ちで胸を張る杏寿郎。
その姿に目を細める天元。
天「…で?お前の今の状態を説明してもらおうか?」
杏寿郎は右足を骨折している。いくら柱でも自分で折れた骨は付けられない。
ギクリと体を固めた杏寿郎。
やはり。
杏寿郎の足は痛みもなく、普通に立つことができていた。
杏「すまない、理由が確定するまで話せない…」