第12章 記憶
し「即効性はありません。喧嘩を売られているのでしょうか。」
しのぶの胸の前には拳が握られている。
天元はこれ以上、しのぶを怒らせてはいけないと思い、杏寿郎の元へ行って引き剥がした。
天「まぁ、少し冷静になれや。
お前、色々とやらかしてんぞ。」
杏「む?やらかしたとは何を…」
天元に離されたことにより、杏寿郎は目の前の泰葉の状態を把握した。
顔を真っ赤にして、いそいそと服装を直す泰葉。
そうさせたのは、間違いなく自分だったことを思い出す。
みるみるうちに、杏寿郎の顔も赤くなった。
杏「や!その…すまない!違うんだ!決して変な事を…」
し「宇髄さん、とりあえず部屋へ連れて帰ってください!」
しのぶに一蹴されて、天元に引きずられるように、杏寿郎は病室へと帰っていった。
静かになった病室。
し「泰葉さん、ごめんなさいね。
一応言っておきますが、煉獄さんは急に女性を襲ったりするような人ではありません。
なので、あのような態度をとった理由があるはずです。」
「私も夜に悲鳴をあげて、ごめんなさい。
大丈夫です。私もそう思います。」
しのぶは眉を下げて、泰葉をみた。
し「泰葉さん。一応、確認を取りますね。
身体は大丈夫ですか?」
そう尋ねながら、手首を取り脈を測る。
「はい。今はなんともありません。」
「泰葉さんは、今日は何度も熱にうなされていたんです。
でも、体調が戻られたようで、よかったですね。」
「…私、途中で運ばれたのね…。
役に立たなかった…。
でも、宇髄様や、煉獄様もいらっしゃったってことは、鬼は倒せたということよね?」
しのぶは頷いた。
「鬼は倒せたそうですよ。
今回は…記憶は、あるのですね?」
「うん。今回はちゃんとある。
そして、列車の後のことも…思い出したの。」
しのぶは目を見開いた。
「では!自分に治癒能力があるか、分かりますか?」
しのぶの勢いに、驚く泰葉。
しかし、戦闘能力に気付いただけで、治癒能力については思い当たらなかった。
「しのぶさん、私は戦うことができるのだと分かったのだけど、治癒能力については分からない。多分そんなものは持っていないと思う。」
し「…そう、ですか。」