第12章 記憶
こく…こく…
泰葉の喉がなる。
水を飲み込めたことを確認すると
ゆっくりと口を離す。
「…はっ」
2人の空気を求める音が重なる。
唇には、唾液と思われる透明な糸が引き、ぷつりと切れた。
杏寿郎は手の甲で自分の口を拭う。
その時、泰葉の目がゆっくりと開く。
「…杏寿郎…さん?」
杏「…!
泰葉さん!目を覚ましたのか!」
杏寿郎は思わず泰葉の頬を両手で覆った。
すると、先ほどまで感じた辛そうな熱が感じられない。
杏「泰葉さん、身体は辛くないか?」
「…? はい、なんとも…」
キョトンとする泰葉。
本当に今まで熱に苦しんでいたとは思えない。
杏寿郎はまさか、と思い
泰葉の、入院着のボタンに手をかけた。
「え…?え、ちょ…ちょっと…」
杏寿郎の耳には泰葉の戸惑う声は届いていない。
泰葉は何が起きているのか分からなかった。
とりあえず、杏寿郎を止めようと手首を掴む。
しかし、力を入れて止めようとしても、びくともしない。
杏寿郎の手は腹までのボタンを開けて、前をはだけさせた。
「やっ、何して…ちょ、ちょっと…」
泰葉は抵抗する。
すると、あろうことか、杏寿郎の手は胸元の傷を覆っていた包帯に手をかける。
このままでは、包帯をずらされてしまうと思った泰葉は、ついに悲鳴を上げた。
「きゃーーーーー!!!」
泰葉の悲鳴を聞きつけた
しのぶはすぐに飛んできた。
そして、何があったのかと天元も飛んできた。
し「泰葉さん!どうしま…」
天「泰葉⁉︎何があっ…」
2人の目には、入院着がはだけ、胸元を押さえている泰葉。
そして、ベッドに片膝をつき、泰葉に覆い被さるようにして、胸元の包帯に手をかける杏寿郎。
天「煉獄…おまっ…」
天元は何が事情があるのかと思ったが、それ以上に
し「熱を出して寝込んでいる女性に…何をしているんです?」
しのぶの顔は笑っているが、額に筋を立てカタカタと震えている。
杏「胡蝶!この粉薬は即効性はあるか⁉︎」
杏寿郎は、この状況をなんとも思っていないようだ。