第11章 救出
杏寿郎は鴉を飛ばし、しばらく治療室の前で待つことになった。
カチャカチャと金属音がする。
杏寿郎は祈る思いで待っていた。
その時、ふと頭に浮かぶ。
まだ父からはちゃんと話を聞けていないが、あの様子だと泰葉さんに治癒能力はあるに違いない。
もし、そのおかげで俺が生きていられるとすると、その治癒能力は自分には働かないのか?
杏寿郎は自分の腕をまくる。
自分の任務についている際、隊士を庇ってついた小さな傷があった。
しかし、それは跡形もなく消えている。
この傷は泰葉さんは直接触れていない。
だとすると、
「血…か?」
そう考えていると、しのぶの声がした。
「煉獄さん、そこにいらっしゃいますか?
泰葉さんは幸い輸血しなくてすみそうです。
なので援護に行っても構いません。
泰葉さんは、しばらくこちらで預かります。」
杏寿郎は心から安心した。
本当であれば、付き添っていたかったが、天元達の戦いも苦戦を強いられているだろう。
杏「承知した!胡蝶、ありがとう!
泰葉さんを、よろしく頼む!!」
そう言って、杏寿郎は吉原へと戻って行った。
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病室に移動してきた泰葉。
しのぶの懸命な治療のおかげで、今後回復する際に熱を出すかもしれないが、その他には大きな心配もなかった。
し「記憶がまた無くなったりしないと良いんですけど…」
嫌な記憶は覚えていない方が幸せなのかもしれない。
しかし、何度も記憶喪失になってしまうのは心配だ。
そして、しのぶも気になった。
杏寿郎の言う通り、泰葉に治癒能力があるのなら、自分には使うことはできないのか…。
まだ、しのぶはその力を目にしていない。
そして、何が原因なのかは分かっていない。
こんなに静かな寝顔の下で、何が起きているのか…
し「とりあえず、無事に回復してくれるのを祈りましょう。」
そっと泰葉の頬を撫でた。