I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
「……あれ?てっきり、ルナちゃんとマナちゃんも一緒かなと思ってたんだけど2人は?」
キョロキョロと不思議そうに俺の周囲を見渡す椿木さん。
「あぁ、今日はお袋がオフだから、久しぶりにお袋と遊んでる。」
俺がそう言えば、椿木さんは「そっか…じゃあどっちが線香花火長くキープ出来るか勝負ね!」と少し照れたようにはにかんだ。
「いいけど、絶ッ体ェ、俺が勝つと思うよ?」
「え!何その自信!線香花火の持続時間勝負に才能とかないよね?」
「いや、何か椿木さんってそーゆーの弱そうだなぁって。勝手な偏見。」
「えー!私ってそんなイメージある?!……確かにゲームとかあんま得意じゃないけど…。」
驚いて大きく目を瞬かせたかと思えば、ショックを受けたように落ち込む椿木さん。
相変わらずの百面相は本当に見てて飽きない。
どうやら知らないうちに頬が緩んでいたらしく、自分よりも少し低いところから、「もう、何で笑ってんの!タカちゃん!」なんて椿木さんの声が響いた。
「んー?椿木さんが可愛くて。」
そう言えば顔を真っ赤にして大きく目を見開く椿木さん。
そんな彼女に笑みを零して、「…あと、それ。俺が持ってくから貸して。」と、椿木さんの腕にかけられていた手持花火が入ったバケツを半ば勝手に奪い取る。
「…えぇ、いいよ!そのくらい、私も持てるよ?」
「バーカ、こういうのは俺の仕事だろ。…それに、こうしなきゃ手繋げねぇじゃん。」
そして、椿木さんの宙ぶらりんとなった小さな右手を取って歩き出せば、後ろから「ちょ、ちょっと!タカちゃん!!」なんて声が響く。
「………嫌?」
少し不安になって振り向けば、耳まで真っ赤にした椿木さんが恥ずかしそうに眼をふせていた。
「……いや、じゃないけど。」
「ん、じゃあ離さない。」
俺が満足げに再び足を動かし始めれば、
ぼんやりと優しく光る月明かりが、2人の影を映し出す。
出逢った頃よりも着実に縮まったその距離。
俺は人知れず頬を緩める。
時折、腕や肩に触れる椿木さんの柔らかな肌は、やけに俺の鼓動を刺激するようだった。
そんな俺は、
「…隆、やる~!」
なんて、玄関から俺らの姿をこっそり覗くお袋と妹達に気付くはずもない。