I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
「…あー、俺ちょっと外出てくっから。」
何て言えばいいんだなんて少し頭を捻ったあとで、後ろからお袋に声をかければ、「あら、彼女とデート?」と顔を綻ばせてお袋がこちらを顧みる。
「………は?…彼女じゃねぇし。」
俺が予想外のお袋の言葉に目を見開いていれば、「なんだ残念、隆の片想いなのね~。ふふふ、顔真っ赤。」とお袋は楽しそうに笑った。
そうすれば、ルナとマナも
「お兄ちゃん!もしかして、凛子ちゃんと遊ぶの?!」
「ずるい!マナも!」
と、こちらを振り向く。
「こらこら、2人ともダメよ。たまにはお兄ちゃんと凛子ちゃんのこと2人きりにしてあげなきゃ。」
「なんで?」
「2人きり?」
「ん~?2人ももう少し大きくなったらわかるかなぁ~。…というわけで、今日は家のことは気にせず年頃2人でゆっくりしてきなさいな。」
「………オウ。」
俺がすこぶる恥ずかしさを感じながら玄関に向かえば、何故かすこぶる上機嫌なお袋が後をついてくる。
「今度、お母さんにも凛子ちゃんのこと紹介してよね。」
「は?絶ッ対ェやだ。」
「え~、どうして?ルナとマナもお世話になってるみたいだし、挨拶くらいさせてくれたっていいじゃない。」
「………そのうちな。」
「え~、そのうちっていつ?お母さんも可愛い凛子ちゃんに早く会いたい~。」
俺は、しつこいお袋を半ば無視して、家の外に出る。
扉が閉まる直前、「あんまり遅くなっちゃだめよ~。」という柔らかなお袋の声が背中越しに聞こえた気がした。
「…身内に知られるって、結構恥ずかしーもんだな。」
はぁーっと大きい溜息をついて、そう独り言ちては頬をかく。
「何が恥ずかしいの?」
「…え、椿木さん?!」
少し下の方から本来返ってくるはずのない返答が返ってきて、驚いて声のする方を見遣れば、俺の家のドアの横で、しゃがんだ膝に頬杖をつきながらこちらを不思議そうに覗き込んでいる椿木さんがいた。
「へへっ、たまにはお家の前まで迎えに来てみた!」
俺が驚いて目を瞬かせていれば、椿木さんはニコニコと笑って、腰を上げた。