I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
ミーンミーン……
夏も終盤に近付いた頃、とある中学の1年3組の一角には、黒い髪の毛をベッタリとスタイリング剤でまとめて、ひどく真面目そうな眼鏡をかけた少年が座っていた。
留年している彼への特別措置という名の夏季補修が行われた後、ついでだからと、少年は少年院に入所している友人への手紙をしたためているところだった。
「…毎日厚くて…溶けそうな毎日を送っています。一虎は…お元気ですか?」
決して上手とは言えない、少年の不器用な性格を体現するかのような字が原稿用紙に、ゆっくりと綴られていく。
最近、変わったことと言えば、三ツ谷に惚れた女ができたことです。
凛子という名前のきれいで大きな目をした描みたいなヤツです。
2人ともおたがいのことをとても大事にしてるように見えて、お似合いの2人でいいなと思っています。
凛子はすごく良い奴なので、一虎もはやく凛子に会えるといいな。
2人は両思いだとみんなが言ってるけど、まだ三ツ谷は告白しないらしいです。
理由は、まだ時期じゃないかららしいですが、いつになったら”時期”になるのでしょうか?
難しいことは俺にはよくわからないですが、2人が幸せならそれでいいんじゃないかと思ってます。
そこまで書いて、少年は「うーむ」と頭を捻ると、分厚い国語辞典をペラペラと捲り、2つの単語を比較するように何度も見ては、ふむふむと唸る。
こい【恋】
特定の人に特別の愛情をいだいて、二人だけで一緒に居たい、できるなら合体したいという気持を持ちながら、それが、常にはかなえられないで、ひどく心を苦しめる(まれにかなえられて歓喜する)状態
あい【愛】
個人的な感情を超越した、幸せを願う深く温かい心。生あるものをかわいがり、大事にする気持ち。
「…なるほどー、こーゆー事かぁー…。…でも、2人の場合はどっちなんだ?愛……?あーーー、くそっ、わかんねぇ。」
誰もいない教室に少年の声が響く。