I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
ミーンミーン…
時刻は夕刻、ギラギラと照り付けていた日差しも傾き始め、今が今世の最大の輝きと言わんばかりの蝉の鳴き声が辺り一面に鳴り響いていた。
俺はルナマナを従えて、家の前の電柱にもたれかかる。
夕方と言えども、少し外に出るだけでこの暑さ。
俺は浴衣の袖を肩まで捲り上げると、手にしていた団扇で火照る顔を仰いだ。
そして、もうじき訪れるであろう待ちわびた瞬間に俺は頬を緩める。
何を待ちわびていたかったって
そりゃ、俺の自信作を身に纏った椿木さんが俺の前に現れる瞬間なわけで。
だらしなくニヤつく頬と、高鳴る鼓動。
柄にもなく、遠足前夜のガキのように浮かれて上手く寝付けなかった昨晩を思い出して、俺は一人苦笑する。
それだけ俺は、この日を、この瞬間を楽しみにしていた。
逸る気持ちを抑えながら暫く待っていれば、カランコロンと響く夏らしく明るい音が、淡い藤紫色の浴衣を身に纏った椿木さんを連れてきた。
俺の姿を確認すると、「お待たせ!」と少し照れたようにはにかんだ椿木さん。
「……どお?上手く着こなせてる?」
恥ずかしそうに首を傾げた椿木さん。
俺は椿木さんの浴衣姿のその破壊力に言葉を失った。
「「凛子ちゃん、かわいいー!」」
そう言って椿木さんに抱き着いたルナとマナの声も霞んでしまうほどには、目の前で微笑んでいる椿木さんのことをただひたすらに” キレイ ”だと思った。
淡い藤紫色の浴衣は、色素の薄い椿木さんの綺麗な瞳と滑らかな肌をより一層惹き立て、
あちこちに施した椿の刺繍は、椿木さんの凛とした美しさを一際強調するかのようだった。
後ろでゆるく纏められたシニョンヘアと少し抜かれた襟元から覗く真っ白なうなじが、やけに色っぽく見えて俺は思わずゴクリと生唾をのむ。
「……その…想像以上に似合ってて、正直すげぇびっくりしてる。」
ドクンドクンッと脈打つ鼓動。
「…お世辞抜きに、すげぇキレー…だと思う。」
俺は急激に熱を帯びた顔を椿木さんに悟られぬよう、苦し紛れに手の甲で口元を押さえた。
そんな俺を知ってか知らずか、椿木さんは「ふふ、タカちゃんが私に魔法をかけてくれたんでしょう?ありがとう。」とふわりと笑った。