I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
緊張しているのか椿木さんは、俺の腰にキュッと抱き着きながら背中にぴったりとくっついているようだ。
「はは、そんな緊張するー?もしかして、椿木さん、絶叫系とかも苦手だったりする?」
メーターを見れば、時速70㎞を指していた。
遊園地のジェットコースターのほうがよっぽどスピード出てるのにな、なんて女子っぽい姿に思わず笑みがこぼれる。
「…あ、あんまり得意じゃない!」
「はは、じゃあ仕方ねぇな、もう少しスピード落とすわ。慣れれば風が気持ちいんだけどね!」
後ろで縮こまっているであろう椿木さんは、今どんな顔をしているのだろうか。
彼女の百面相は見てて飽きないので、ふとそんな疑問がよぎった。
目を大きく見開いて恐怖をこらえているのか、半泣きか、それとも顔に皺が出来る勢いで目を固く瞑っているか。
まぁ、どんな顔してても可愛いだろうな、そんなことを考えている自分に苦笑した。
ただ、もう少しだけ、後ろに感じる彼女のぬくもりを独り占めしていたい。
そんなことを柄にもなく思う。
時々、椿木さんの道案内が入りながら、暫くバイクを走らせていれば、後ろから再び大きな声が聞こえてきた。
「…み、三ツ谷くん!そ、そこの次の信号右に曲がったらうちの近く!」
暫しのお楽しみの時間の終わりを告げる彼女の声に、俺は少し気を落としながら、「了解。」と告げた。
しかし、今まで少し浮かれていたせいか全くもって気が付かなかったが、指定された信号を曲がれば俺の自宅の通り。
そして、ここ!と言われたところでバイクを止めれば、更に驚く。
「………あ?…椿木さん家、うちの向かいだわ。」
「え、そうなの?」
「うん、2階のあそこ。」
そして、二人で再び驚いた後、顔を見合わせて笑いあう。
「えー!!!びっくりー!家までご近所さん!うちはここの3階の角部屋なんだ。…今まで会ったことないの逆に凄くない?」
「ハハッ、ほんとにな。」
「ねぇねぇ、こんなに近いなら、ちょっと家寄ってかない?送ってくれたお礼といっちゃなんですが、お茶くらい出すよ!」
バイクを降りると、椿木さんはまるでしっぽでもあるのではないかと思うくらい、嬉々として自宅へと誘ってきた。